革製品を使うにあたって、よく聞くのが「防水スプレーをふっておくといいですよ」というアドバイス。
革には水が大敵というイメージから、革から水気を遠ざける手段として防水スプレーの使用をお勧めされることが多いです。
当サイトShoesLifeでも、これまで防水スプレーに関する記事を公開していますが、本記事ではあらためて防水スプレーについてまとめておきたいと思います。
まずは革靴・革製品に「防水スプレーを使わない理由」についてまとめます。
一般的なスムースレザー(ツヤ革)の靴の場合、基本的なお手入れ(靴磨きの基本“サフィール流シューケア術”を参照)をしっかりと行うことで、革は油分で十分に潤い、ワックスによる被膜によって美しい光沢が出ます。
この基本的なお手入れで補われる油分が雨などの水気を弾くことで、革にしみ込んでしまうのを防いでくれます。
また同様に、革を覆うワックスの被膜は水気を弾いてくれるので、さらに雨など水気の浸透を防ぎます。
これっていわゆる「防水効果」ですよね!
基本的なお手入れを定期的に行うことで、靴クリームやポリッシュに含まれる油分やワックスの効果によって防水スプレーを使わずとも防水効果が得られることになります。
なおワックスでツヤの出ている革表面に防水スプレーをふきつけたとき、ツルツルの光沢面では防水スプレーが浮いてしまい、うまくなじまないことがあります。
そのまま乾くとせっかくツヤが白くくもったようになってしまうため、せっかくのお手入れの成果が台無しになってしまうことも………
スムースレザー(ツヤ革)の革靴に限っていえば、サフィールやサフィールノワールを使った基本的なお手入れがきちんとなされていれば多少の雨や汚れに対しては、防水スプレーを使用しなくても十分な防水効果を与えることができます。
水気や油の浸透を防ぐ、という用途で防水スプレーを使うのであれば、そもそも水を通さない素材やコーティングされた素材には防水スプレーは不要です。
例えば、エナメル(パテントレザー)やガラスレザーは樹脂コーティングがなされた革素材で、素材自体には水は浸透しません。
エナメルやガラスレザーにはそもそも防水スプレーがなじみにくいため前述したお手入れ後のツヤツヤの靴同様、白くくもってしまったりツヤがなくなったりといったデメリットが生じます。
合成皮革もまた水や油を弾く性質を持つ素材なので、防水スプレーの使用が必須というわけではありません。
ただし上記のような素材は水気・湿気にさらされるのを長く繰り返すと劣化(加水分解)の原因となるため、いくら水に強い素材とはいえ濡れてしまったら速やかに拭き取って乾かしてあげる必要があります。
「防水スプレーを振ると革が傷む」や「色落ちする」といったトラブルに見舞われた、という話題も時折見受けます。
このようなトラブルを避けるために防水スプレーを使わないようにする、という選択をされている方も多いのではないでしょうか。
防水スプレーを原因とするトラブルは、防水スプレーに配合される成分が影響している場合があります。
具体的に言うと、最後まで勢いよく噴射するために充填されている高圧ガスや有機溶剤などが該当します。
ただ高圧ガスや有機溶剤は一般的なエアゾール製品でも使用されているもので、防水スプレーに限った「特別悪い成分」ではありません。
防水スプレーに限らず、エアゾール製品を使用する際には起こり得るトラブルでもあります。
色落ちや白濁など革が傷んだ?と思われるトラブルが発生するケースは、誤った使い方をしていることも多く見られます。
近づけ過ぎやかけ過ぎによって、本来正しい用法で使われていれば革に影響しないはずのガスや溶剤を対象へ過剰に吹き付けてしまうことで余計なダメージや色落ちを招いてしまうわけです。
どんな場合でも必ず正しい用法・用量を守って使用するのが、最大のリスク回避方法なのです。
つづいて防水スプレーを使うことで得られるメリット、効果についてまとめます。
防水スプレーを使う1番の理由は、水気や油分が革にしみ込むのを防ぐためです。
革に水や油がしみ込むことで起こる厄介事が“シミ”の発生です。
食べこぼしなどで付着することの多い「油」は乾きにくく残りやすいので革にしみ込んでしまうとそのまま「油ジミ」となってしまいます。
水分は、乾きはするのですが、濡れ方によっては乾いた後に「跡」が残る場合があります。
(頭を悩ます皮革のトラブル “2種類のシミ”の理由と対策 を参照)
このような“シミ”のトラブルを未然に防ぐために、防水スプレーをかけて水や油が革にしみ込むのを予防するのが主な目的です。
上記の「水や油の染み込みを防ぐ」というのも含みますが、防水スプレーの効果として特に期待できるのが「汚れをつきにくくし、取れやすくする」ことです。
ほこりやチリは積もったまま放置すると乾燥の原因やカビの温床となるので、マメに払い落としたいものです。
防水スプレーをかけておくと、革表面に防水スプレーによる被膜が構成されてチリやほこりなどの汚れが革自体に直接触れることがなくなり、カンタンに払い落とせるようになります。
日々のブラッシングでササッと払い落とすことができるので、ブラシをかける一手間で革製品の美しさを長く保つことができます。
また汚れがついてしまったときも、防水スプレーの被膜の上であれば容易に落とすことができます。
汚れたまま放置してしまうと途端に落ちにくくなる汚れもあります。例えば「泥はね」などは雨水といっしょに砂・土などが付着し乾いてしまうとシワや凹凸に入り込んで取れにくい汚れになります。
あらかじめ防水スプレーかけておけば、防水効果が効いているうちはクロスなどで軽く拭っておけば最悪の自体は避けられるでしょう。
多少残ってしまった汚れはクリーナーと併用すれば落ちますが、その場合は防水スプレーの効果も落ちるので、お手入れからし直して防水スプレーも振り直しておくと万全です。
スムースレザー(ツヤ革)以外に、スエードやヌメ革、布地なども靴やかばんによく使われる素材です。
しかしスムースレザーとは違い光沢がなく、毛が束なったり風合いが変わってしまうためワックスの被膜で防水・耐水効果を上げることができません。
このような素材を水気や油、汚れから守ることにこそ防水スプレーは真価を発揮します。
スエードやヌバックなど起毛革(特にスエード)は比較的に雨、水気に強い素材と言われています。
皮革表面が毛羽立っている分だけ、表面張力が働きやすく水気を弾きやすいという特徴があるからです。
しかし毛羽立っているがゆえに乾燥しやすく、また汚れやすいという弱点もあります。
乾燥してしまうと水気・油分が染み込みやすくなってしまうためです。
起毛革の乾燥予防にはスエードスプレーを使った油分補給が効果的です(サフィール スエード&ヌバックスプレーを使ってみよう を参照)。
サフィールのスエードスプレーには防水スプレーに配合されるフッ素も入っているので撥水効果も同時に与えられますが、あくまで栄養・補色が目的な製品なので、純粋に防水性能で比較するとやはり防水スプレーの方が勝ります。
元の素材として水気に強いスエードだからこそ雨の日に履くとするならば、基本的なお手入れの後により防水効果を強化するためにもダメ押しの防水スプレーを掛けておけば、スエードやヌバックなどの起毛皮革の雨対策としてはバッチリです!
ただでさえ水や油のしみやすいヌメ革は、ワックスや油分を含むお手入れ用品ではかえってシミの原因となってしまうので、防水・防汚効果は防水スプレーを使って補うのがセオリーです。
ヌメ革・デリケートレザーには「デリケートクリームで保湿をして、防水スプレーをかける」というお手入れ手順をルーティンにすれば、ヌメ革の自然な風合いを長く保たせることができます。
ヌメ革などデリケートレザーにも使える防水スプレーを選択する必要がありますが、自然な風合いと経年変化が魅力のヌメ革を長く美しく保つためには必要不可欠なケアだと言えます。
布地も同様、ワックスや油分を含むお手入れ用品が使えません。
にも関わらず一度汚れてしまうと落としにくく、できれば最初から汚したくないものです。
なので、布地素材の靴やかばんにはプレメンテナンスとして使い始める前にあらかじめ防水スプレーを掛けておくことで、きれいに保つことができます。
布地素材に使用する際は、繊維や織目のすみずみまで防水スプレーが行き届くよう、革素材に使用する時よりもしっかり吹きかけておくのがポイントです。
靴やかばんを買った。 → 防水スプレーしなくちゃ…… みたいな先入観で無理に防水スプレーを使う必要はありません。
そもそも革靴・革製品は防水スプレーひとつでお手入れが完了するようなものではなく、定期的に汚れを落としてクリーム・ローションで栄養とツヤを与えるという基本的なお手入れを続けることの方が美しさを保ちながら長く使い続けるためには必要な手順となります。
それでも、雨がよく降る時期(梅雨や秋雨)、雪の多い冬、急な天候変化などに備えて、より強い効果を発揮させるために防水スプレーを事前にしっかりと靴やかばんにかけておくことが有効なのです。
靴やかばんをいつ・どのように使うのかをまず考えて、必要に応じて防水スプレーを使うか使わないかを考えることが重要です。
それでは、防水スプレーの効果を最大限発揮させるためにはどのように使うのが最適なのでしょうか。。
以前の記事「防水スプレーを学んで、梅雨対策を万全にしよう。」でも取り上げていますが、あらためて本記事でもおさらいしておきます。
防水スプレーが十分な防水効果を発揮できるまでに定着するのは、防水スプレーを掛けて「30分後」から。
できれば出かける前ではなく、前の日の夜にかけておいて一晩は置くのが理想的です。
定着前に雨に濡れると、防水スプレーが流れてしまい効果を発揮できなくなってしまいます。
雨の日の急な外出のときでも、防水スプレーを掛けたらせめて30分は時間を置くようにしてください。
近づけすぎると、スプレーが対象に届くまでに揮発するはずの溶剤が揮発し切れずにかかってしまったり、噴霧範囲が狭くなる分だけピンポイントに集中してかかってしまい、大量に掛かり過ぎてしまいます。。
かけ過ぎた結果、色が落ちたり白くなったりしみになったりとかえってトラブルを招くことになるので十分注意してください。
防水スプレーはたくさんかければかけるほど、強力に効果が出て良いように思いますが、実際にはまったくそんなことはありません。
たくさんかかっているところとそうでないところができて均等に吹き付けられず、かかり過ぎたところは液垂れしたりムラになったりしてしまいます。
防水スプレーは小刻みにノズルを押しながら、全体にうすくかけることを意識し、まんべんなく行き渡らせることで、ムラなく防水効果を発揮させられるようになります。。
慣れないうちはどれだけ気をつけていてもスプレーをかけすぎてしまうこともあります。そんな時はスプレーが乾いてしまう前に速やかに軽く拭き取ってください。
拭き取る際は力を入れて強くこすってしまわないように、気をつけてください。
防水スプレーには“フッ素樹脂”タイプと“シリコン系”タイプがあります。
ざっくりわけると通気性維持ならフッ素系、持久力&効果重視がシリコン系となります。
シリコンタイプは対象にシリコン樹脂を染み込ませて被膜を作るので、防水効果の持続性に優れますが、目を埋めてしまうので通気性が損なわれます。またオイルを使用するため撥油・防油効果ではフッ素系に劣ります。
皮革製品や防水透湿性素材への使用は、フッ素樹脂を積層し水の分子を遮断する被膜を形成するフッ素系防水スプレーの方が適しています。
防水スプレーも他のシューケア・レザーケア用品と同じように、“適材適所”で使い分けることをおすすめします。
防水スプレーを使わなくても日常のお手入れで十分防水・耐水効果を発揮させることができるのも事実ですし、用法・用量を守って正しく使用すれば、大事な革靴・革製品を傷めることなく安心して使うことができます。
逆に防水スプレーを使わなければシミや汚れがつくリスクが高まる素材やケースがあるということも知っておく必要があります。
「防水スプレーさえ使っとけば、万事オーケー!」なんて思ってお手入れを怠れば防水スプレーを使っていても革は傷むし、「防水スプレー使わない方が皮革素材にやさしい」と思って急な雨に降られて大事な靴・かばんにシミを作ってしまうことがあるかもしれません。
使い勝手の良い便利な道具だからこそ、上手に使って大切な靴・かばんをトラブルから守ってきれいに使い続けていきましょう。