革靴を履き始めて、お手入れについて調べたり靴磨き屋さんにメンテナンスに出したりしていると、必ずと言っていいほど“ハイシャイン”という言葉に行き着くことになります。
実際のところ、皆さんはハイシャインを「する派」ですか?「しない派」ですか?
基本的なお手入れは大事な革靴を長く履き続けるためには必須のメインテナンスなのですが、ハイシャインは別にしなかったとしても靴の寿命にはさほど大きく影響しないように思いますよね。
むしろ「ハイシャインすると靴が傷む・劣化する」という風潮まであったりします。
※ハイシャインをすることのメリットについては以前の記事も併せてお読みください。
そこで今回は「する派」も納得、「しない派」はやってみたくなる(かも?)、ハイシャイン(鏡面磨き)のソボクなギモンにお答えしたいと思います。
まとめ
早速突っ込んだ疑問からお答えします。もちろん答えは「割れません。」 サフィールならね。
ハイシャインをすると、鏡面部分が割れるのと同時に靴のつま先・かかとの革までも一緒に割れたりひびが入ったりするのでは、という心配の声をよくお聞きします。
ご安心ください! 靴は割れていませんよ!
ぶつけたり踏まれたりすることで、ハイシャインされて鏡面状態になっているワックスの層がひび割れることはあっても、靴(革)自体が一緒になって割れるようなことは普通ありません。
「普通」と書いたのは、普通じゃない場合(言わずもがな、ワックス被膜を貫通するような激しいキズは革にまで影響します。当然ですが)があるからなのですが、この革にダメージを与えないハイシャインというのは栄養成分をしっかりと含んだサフィールのポリッシュならでは、だからです。
動物性のビーズワックスや植物性のカルナバワックスなどの天然成分を潤沢に含むサフィールブランドのポリッシュには十分な保湿・保革効果があるので、乳化性クリームを使わずビーズワックスポリッシュだけでお手入れをする方法を好む方も欧州には多くいます。またレジェンドと呼ばれる日本の靴磨き職人さんがこの方法での施術を長年に渡り続けられています。
※ただし溶剤を揮発させ乾燥させたドライワックスでなく、浸透性の高い柔らかいままのポリッシュを使います。
対して、石油由来のケミカルワックスが主成分である固形ワックスを使用する場合、石油系特有の揮発性によってハイシャインの光沢の内側では革の乾燥が進んでしまっているケースがあります。
油分・水分が補われないまま乾燥が進むと徐々に皮革素材の持ち味である柔軟性が失われていき、そのうち屈曲や圧に耐えられなくなった繊維の断裂が起こります。
いわゆるクラック(亀裂、ひび割れ)という状態になります。
ハイシャイン自体が革へのダメージとなるのではなく、ハイシャインするのにどんなワックスを使っているかが皮革のコンディションに大きく関係してくるわけです。
サフィールのビーズワックス ポリッシュは、靴クリームであるビーズワックス ファインクリーム(サフィール)やクレム1925(サフィールノワール)と同じ原料を使用しています。
栄養補給を主な目的としている製品と同じ成分を配合している、というだけでも皮革にとっては良い効果が得られるものとわかっていただけますよね。
前述の過去記事にもある通り、ハイシャインをすることのメリットも多々あります。
ハイシャインしておくことで、ぶつけたりこすったりで受けるダメージからある程度は靴・革を守ることができるわけです。
もちろん日頃のお手入れをしっかり行い、靴のコンディションを整えておくことが一番の優先事項です。
ハイシャインはあくまでプラスαで保護効果とドレスアップ効果を与えるものである、という認識で間違いありません。
懸念される皮革への悪影響は、1.でも取り上げましたが、今お使いの固形のワックスがどういった成分で構成されているのかに大きく左右されます。
この「靴が呼吸する」という言葉、よく聞くフレーズです。
靴の通気性を呼吸に例えた比喩表現だとわかってはいますが、個人的には違和感バリバリでちょっと気持ちが悪いです。
そもそも、つま先・かかと部は部材が重なりあっていて、そう容易く(例えばスニーカーのメッシュ地のように)湿気がツーツーに抜けるような構造にはなっていません。
そのような箇所にワックスの被膜を張ったとて、それが原因で湿気が抜けなくなって靴がどうこうなってしまう、なんてことはそうありません。
そりゃ毎日同じ靴を履き続け、靴の中が乾くことがないくらいに足汗をかき続けていれば靴自体の吸湿性は飽和状態となって、水分でグズグズのヒタヒタになったままでいれば型崩れや皮革の傷み、雑菌の繁殖による悪臭やカビの発生など様々なトラブルを引き起こす原因となることはあるかもですが、ShoesLifeを見に来てくださっている皆様に限ってこのような靴の履き方をしている方はいないはずです。ですよね?ね??
靴の呼吸の有りや無しやを気にするくらいであれば、まずは少なくとも3~4足をローテーションで履き回せるようにして靴を脱いだ後に靴の休息時間(乾燥時間)をしっかり取ること、そしてその際には吸湿性のある木製のシューツリーを使って、靴の型を整えつつ調湿することを考えてあげた方が良いように思います。
靴磨きのプロと一般の方とで、靴磨きを比較したときに差を感じるのが、「速さ」と「質」だと思います。
ベーシックケアはさておき、ハイシャインに関しては時間さえかければ案外誰にでもそれなりの仕上がりにできる技術だったりします。
しかしながら靴磨きを生業としているプロのシューシャイナーであれば、1足磨き切るのにそれこそ何時間も掛けていたら、1日に手がけられる足数が限られてしまいます。
限られた時間内にどれだけの足数の靴を磨くことができるかは、シューシャイナーにとって死活問題となるわけで、必然的に「質」だけではなく「速さ」も同時に求められます。したがって靴磨きにおいては仕上げるスピードは重視されるべき要素であるのは確かです。
とはいえ繰り返しになりますが、ハイシャインはただただ靴を光らせるだけが目的ではありません。
プロのシューシャイナーとしては、お客様の大切な靴をいつまでも大事に履き続けていけるようなメンテナンスを施すのが仕事であり、ハイシャインを求められれば「意味のあるハイシャイン」を提供する義務があります。
サフィールのブランドコンセプトに賛同する、当サイトでもおなじみの“SAPHIR FRIENDS サフィールフレンズ”のみなさんは、サフィールの認定試験を受験する際、設けられた時間制限の中でベーシックケアからハイシャインまでを定められた一定基準を上回るクオリティで仕上げることが求められます。
「雑だけどとにかく速い」ではなく「丁寧だけどめっちゃ時間がかかる」でもない、「靴に求められるケアと美しさを適切に提供する」のがプロの技なんですね。
さてプロにお願いするのではなくセルフで靴をケアしていく場合はどうでしょうか。
時間に制約がなければ好きなだけ時間をかけていいわけですし、ハイシャインをする際はそのメリットをきちんと享受できるようしっかりと手を掛けるべきだと考えます。
ハイシャインをすることがかえって悪影響となるような低品質なワックスでどれだけ速くハイシャインができたとしても、光沢があってただきれいに見えるだけで、これでは靴にとって何の意味もありません。
せっかく貴重な時間を使って靴を磨くわけですから、最大限の効果と最高のクオリティを両立させたいところです。
このお悩みもよくお聞きしますね。
一般的に、
「ハイシャインはお手入れの時に毎回落として、基本ケア後にもう一度し直しましょう」
と、案内を受けるケースが多いように思います。
さて、賢明なShoesLife シューズライフ愛読者の皆様はもうお気づきでしょうが、毎度落とさなければいけないようなハイシャインは、きっと低品質な固形ワックスを使っていてハイシャインしたままでは皮革が傷んでしまう恐れがあるのでしょう。
もしくはクリーナーをたくさん消費してもらって、たくさんリピート購入してもらいたいか、だったり………。
アベル社では、日常のお手入れでの汚れ落としはサフィール クリーニングローションやサフィールノワール コンディショニングクリーナーを使って、塗布されたワックスや油分はある程度残し、表面に付着した汚れだけを落とすことを推奨しています。
ハイシャイン部分はそのままに、上からファインクリームやクレム1925をアプライブラシで普通に塗布して、豚毛ブラシでがっつりブラッシングします。
当然ながらハイシャイン部分はブラッシングによって小キズが入り鏡面ではなくなってしまいますが、ワックス被膜はそのまま残ります。
そこにクリームを塗布しても、ビーズワックスポリッシュは、ファインクリームやクレム1925と同じ原料を使用しているので非常によく馴染んでくれます。
ワックス塗布面をクリームがやわらかく溶かしながら、新たに塗布したクリームがなじみ、浸透するので栄養効果や補色効果は十分役を果たしてくれます。
この後ハイシャインをかけ直すときも、残ったワックス被膜がハイシャインの下地(ベース)となってくれます。
したがって、下ろしたての、どスッピンの革の状態からハイシャインをする時よりも、ずっと速く鏡面に仕上げ直すことができます。
靴のお手入れとその後にハイシャインをする、このような時に「クリームとポリッシュの相性、組み合わせ」が大きく影響をします。
もうこれは価値観や美意識、個人の趣味・嗜好によってマチマチですから何とも言えません………。
ただ筆者である私個人の見解ではありますが、これは靴のデザインやフォルムに対するハイシャインのかけ方・光らせ方によって与える印象が大きく変わるように思います。
革靴の手入れをメイクに例えるなら、ガッチガチのハイシャイン、つま先・かかとをこれでもかと自己主張強めに光らせたのが目立ってナンボの「舞台メイク・パーティメイク」で、つま先・かかとを中心に靴全体のフォルムとの調和を重視して鏡面の強弱(グラデーション)を付けているのが自然な仕上がりの「ナチュラルメイク」と仮にするならば、前者は「非日常感」が強く出てしまうのでダサいと感じてしまう、ということなのかもしれません。
ハイシャインはただ光っていれば良いわけではなく、靴のデザインを損ねず、むしろいかに靴本来の良さ・美しさを引き立てられるか、が重要だと私は考えています。
ハイシャインはただ単に靴を光らせるための技術にとどまらず、大事な靴をいかに保護し、いかに長く履けるようにするか、というシューケアの基本の延長線上にあるべきものだと思います。
速さや簡単さだけにとらわれず、ケア・メンテナンスという観点でハイシャインをすることが靴にとってのプラスとなっているか、これを常に心がけていきたいものです。
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