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くすみのシューケア生活
靴磨きに使うブラシにはいくつか種類がありまして、用途はもちろん知っておいていただきたいのですが、あわせて選び方のコツも知っておいていただくと、靴磨きライフがちょっと楽しく快適なものになるかもしれません。
今回は次の5種類のブラシをご紹介してまいります。
また、ブラシが『育つ』おもしろさについてもご紹介させていただきますので、是非参考にしてみてください。
最も使用頻度が高いのがこちらの馬毛ブラシです。
比較的毛が柔らかく、1日履いた靴に付着した土やホコリを払い落とすのに使います。ほぼ毎日使うものなので、是非各家庭で玄関に1本は常備しておいていただきたいブラシです。
写真左のサフィール・グランドホースヘアブラシは、全長21cmのかなり大きなサイズのブラシです。写真右はルボウブランドから展開されているピュアホースヘアブラシ。13.5cmのブラシです。
グランドホースヘアブラシはサイズだけでなく、毛足が長いので細かい隙間や靴のくびれた部分へ届きやすいという使い勝手の良さがあります。(現在は持ち手がストレートに毛が茶色の仕様変更になっています)サイズも大きいので、1回のストロークでほぼほぼ土やホコリを落とせるので非常に楽チンです。僕の手には21cmのブラシはちょっと大きいのですが、この毛の長さは非常に気に入っています。
グランドホースヘアブラシではちょっと大きすぎる!という場合は、18cmのもう少し小さいものもありますし、こちらのピュアホースヘアブラシなら場所も取りません。
個人的には靴用ではなく、デスクのホコリを払うブラシとしてもうひとつ欲しいのがこのピュアホースブラシでもあります。
豚毛ブラシは靴磨きをするタイミングで使うブラシです。
靴クリームを塗った後、そのクリームを革に馴染ませながらツヤを出すことができます。塗ったクリームの成分によって靴がツヤを取り戻す、靴磨きの喜びを味あわせてくれるブラシでもあります。
しかしながらクリームが付着するブラシなので、クリームの色が混ざらないようクリームの色ごとにブラシを分けて用意することが推奨されています。例えばブラシの色を分けないと、明るい茶色の靴に黒のクリームが付着してしまうという悲しい結果を招く可能性があるためです。
黒い毛の豚毛ブラシもありますが、クリームの色がわかりやすいように白い毛のブラシを使われている方が多い印象です。
写真左のダスコ・ブリストルブラシ スモールは14.5cmのコンパクトな豚毛ブラシ。
そして、写真右はサフィールノワール・ポリッシャーホースヘアブラシ。12cmとかなりコンパクトなサイズのブラシです。ポリッシャーホースヘアブラシは馬毛が使われていますが、弾力のある毛なので豚毛のような使い方ができるのが特徴です。
ダスコのブリストルブラシ スモールは非常に良心的なお値段(¥990 税込)なのでお試し用にはよいですが、毛の長さが1.8cmと少々短めです。サフィールノワールのポリッシャーホースヘアブラシ少々高価(¥3,850 税込)ではありますが、持ち手の高級感だけでなく、毛足も2.5cmと長めで細かい隙間にも届く使いやすさがあります。
靴の色が増えるとブラシの数も増えるという仕組みなので、ここはご予算に応じて選んでいただければいいと思います。しかしながら靴と同様、ブラシも革の色に合わせて増えていく楽しさがありますよね。
豚毛ブラシはガシガシと高速でブラシングするので、握りやすさ・持ちやすさも大切になってきます。これは好みもありますが、大きすぎるとコントロールが難しくなり、小さすぎると毛の長さが物足りないということにもなりかねません。
僕の小さい手には、ポリッシャーホースヘアブラシのサイズ感と毛の長さはとてもちょうどよく感じます。
というように、基本的には馬毛ブラシと豚毛ブラシがあれば事足りるわけですが、クリームを塗るためのブラシもあります。指が汚れにくいのが大きなメリットです。
サフィールノワール・アプライブラシはクリームを塗るための小さなブラシです。指や布で塗るのでは届かない細かい隙間にも届くのが、ブラシでクリームを塗るメリットでもあります。
ブローグの穴飾りが多い靴やアッパーとソールの隙間にもクリームを行き渡らせることができます。
スエードやヌバックなどの起毛革専用のブラシもあります。
スエードの革靴をお持ちの方には是非持っておいていただきたいブラシです。
写真左のダスコ・アプリケーターブラシはその名の通りクリームを塗布するためのブラシでもありますが、起毛革の毛並みを整えるためにも使えます。豚毛が使われていますが、今までのブラシと違いハンドルが付いているというのも使いやすいポイントです。
写真右のサフィール・スエードブラシはナイロンと真鍮(しんちゅう)でできているブラシです。真鍮は硬いので、寝てしまった毛を起こすために使います。ただし、強く擦ると毛がちぎれてしまったりキズができてしまう恐れがあるのでご注意ください。
日常的に使うのであれば馬毛ブラシで土やホコリを落とすこともできますが、スエードスプレーなどを馴染ませるためのブラシとして、1本あるとよいでしょう。
また、毛に付着した汚れを吸着して落とす、クレイープブラシというものもあります。ゴム素材でできている起毛革専用の汚れ落としようブラシです。
さらに、鏡面磨きの後の仕上げで使うブラシなんてものもございます。
日本の伝統工芸の技術で作られている高級ブラシなので僕は持っていませんが、鏡面磨きをした後の仕上げに使うブラシです。馬毛や豚毛よりももっと柔らかい、山羊の毛が使われています。
ワックスを靴全体にうっすら馴染ませたり、鏡面の境目をぼかすような使い方をします。
これはもう、マニアたちのためのブラシですね。
さて、通常馬毛ブラシは土やホコリを落とすためのブラシではありますが、個人的には仕上げのブラシとして馬毛ブラシを使うのがおすすめしたい使い方でもあります。
革靴の経年変化を『育つ』と表現するように、ブラシにも育つという概念があります。長く使っているブラシは、毛にクリームの成分(油分やロウ分など)が付着します。すると、クリームを塗らなくても、そのブラシでブラッシングをしただけで革に栄養とツヤを与えることができ、この状態を『育った』ブラシと表現することがあります。
僕は馬毛ブラシを玄関に1本、自室に2〜3本置いていますが、自室に置いているブラシは『各方面で育ったブラシたち』なのでございます。
無色のクリームだけで育てたブラシはクリームのロウ分によって簡単にツヤが出ますし、オイルを塗った後に使うブラシは、ブラッシングするだけで革に少量のオイルを塗布できます。デリケートクリームを塗りのばすためだけのブラシもうっすらオイルが染み込んでいるので、同様の効果を得られます。
育ったブラシは、簡単にお手入れしたいときには非常に便利です。
ブラシがひとつずつ増えていく嬉しさもありますが、それが育って少しずつ使い心地が変わっていくおもしろさもあると思っています。
夏は暑いので極力ブラッシングの回数を減らしたいわけですが、育ったブラシでササっとやると簡単にツヤが出るので、それはそれで楽しくて気付けば右腕が疲れるまでブラッシングをしているというのが、靴磨きのおもしろさです。
是非お気に入りのブラシ、見つけてみてください。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
本コラムでくすみさんが紹介された商品はこちらで購入できます。
Writer profile
楠美 皓平 Kohei Kusumi
革靴ジャーナリスト・ブロガー
祖父に教えてもらった靴磨きがきっかけで、靴のお手入れ方法や革靴に興味を持ち、『革靴の魅力や靴磨きの楽しさをもっと多くの人に知ってほしい』という想いでブログやYouTubeで情報発信を行う。また、ファッションとしての革靴だけでなく、足を支える道具としての革靴という側面から、靴選びの大切さについても発信をすべく知見を深めている。
ブランドや職人の取材のライティングをする一方で、靴好きの方のコミュニティの活性化の一環としてイベント運営も手がける。
前職のwebディレクターの経験からシューメーカーのブランドサイトやオンラインショップの制作・カスタマイズ、広告運用を受け持ったり、ブランディングや商品開発のコンサルなども行う。
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