工場の2倍の広さはありそうな新しい建物に足を踏み入れると、雰囲気がガラリと変わる。天井がとても高い倉庫部分は耐火構造で、製品にダメージを与えないようにスプリンクラーの代わりに泡消火装置が設置されている。この建物には約750万ユーロが投資された。
しかし、今回の訪問で私がいちばん感銘を受けたのは、開発のほとんどが行われる同社の研究所だ。同社の開発の歴史を担ってきたこの場所で、すべてがひとつになる。そして、柔軟性のある小規模生産者という大企業のおもしろい側面を見られる。スペインにあるタラゴの工場と同じく2人の化学者が勤務しているこの場所で、新製品が生み出されている。しばしば、顧客の意見を受け。あるいは、さまざまなプロのシューシャイナーと協働して。私が訪問したとき、レノベイタークリームとレノマットリムーバーを足して二で割ったようなサフィールノワールシリーズの新しいレザークリーナーの開発が大詰めを迎えていた。私は若干異なるレザーで製品試験に参加し、実際にコンディショニングクリーナーと命名した。
研究所の棚には、必要に応じてさまざまなバッチに遡ってチェックできるように過去2年間に製造された製品の瓶、チューブ、ボトルがずらりと並んでいる。さらに、開発したさまざまなサンプルが多数保管されている。多くはさまざまな理由で、または開発の初期段階で完成に至っていない。
「研究所にはよく顔を出します。ここは刺激的で、とてもおもしろいことが起きる場所なんです」
興味深いのは、ここでは企業と個人からさまざまな“ビスポーク”の注文も受けていることだ。たとえば、きわめて特殊なレザーの色合いを求められれば、希望どおりの製品を作る。世界で80の市場に定着しているという意味では巨大企業といえる会社がこのような小口の特別注文にも対応するとは、最高にクールではないか。
「このような製品を開発できるチャンスはなかなかありません。儲かりはしませんが、レザーケアこそが私たちの使命であり、私たちにできることをしたいのです」