昨年から続く新型コロナウィルスの影響で、今までとは生活様式が変わり、まだまだ我慢を強いられる時期が続いています。
日本で暮らしている我々にも、海外のニュースはメディアなどを通じて少し知ることは出来ますが、海外のシューメーカーの状況や変化していく様々な情報にはどんなものがあるのでしょうか?
今回は、イギリスのシューメーカー『Gaziano&Girling ガジアーノ&ガーリング』の共同創立者、トニー・ガジアーノ氏へのインタビュー記事をご紹介します。
※引用元:saphir.com
Interview with Mr. Tony Gaziano, Co-Founder of Gaziano & Girling
インタビュアー:トニーさん、本日はよろしくお願いします。ガジアーノ&ガーリングは新型コロナウイルスとブレグジットという目下の難局をどのように乗り切っておられますか。
ブレグジットは諸刃の剣だと思います。当社のウェブサイトではヨーロッパのセールスは伸びたもののヨーロッパへの出荷は困難を極めているようです。企業は新しいシステムと付随する書類仕事に慣れなければなりませんから。
これまでに私たちに与えられた時間を考えると、本当に情報が不足しているという印象です。自分が何をしているかわかっている人は実のところ誰ひとりとしていないのではないでしょうか。
EUのオンライン売上増加の要因がVAT(付加価値税)を支払う必要のないお客様なのかコロナ禍で節約しているお金をオンラインショッピングで使おうというお客様なのかはわかりませんが、経営側にとって変化する規則のすべてに対応するうえで大きな課題です。幸いなことに、EUからのレザー供給に関しては、英国の代理店が輸入規制に対応してくれています。
インタビュアー:レザーの価格の上昇を感じていますか。
今はまだ感じていませんが、そう感じる時が来るでしょうね。価格自体はさほど上がらなくても、プロセスにさらに時間がかかればコストが上がりますから。
当社はイタリア、フランス、ドイツからレザーを調達しています。各国の政府は目下コロナ対応に追われていますが、近いうちに輸出入のガイドラインの詳しい説明があることを期待しています。
インタビュアー:今はビジネスにとってまさに試練の時です。昨年いちばんご苦労されたのはどんなことでしたか。
イギリスのロックダウンで休業を余儀なくされ、受注の維持にいちばん苦労したと思います。ロンドンの店舗は収益の約40%を占めているので、昨年の損失は大きかったです。
夏の数カ月は営業しましたが、コロナの脅威と旅行制限が足かせとなり客足は戻りませんでした。私どものお客様の約80%はアジアやアメリカをはじめ世界各国からお越しになるビジネスマンです。国境が閉鎖されたことで、このような客様が目に見えて減り、当社にとっては我慢の一年でした。
新製品の開発に時間をかけることができましたし、多くのお客様にオンラインショップをご利用いただけたので、ロックダウン中も楽観的でした。今のところ非常に好調です。さらに、アジアが世界に先駆けてコロナ禍を克服し、アジアの店舗から注文が入ったので助かりました。
この卸売業のおかげで、なんとか通常レベルまでビジネスを回復できる見通しがつきました。一般に、1月と2月は通常でもどのみち閑散期なので、通常に戻るまでもう少し辛抱が必要だと思います。
イギリス政府がワクチン接種計画を推進していますし、通常に戻ってほしいですね。各地でトランクショーを開催しなければなりませんし、お客様にイギリスに来ていただかなければなりませんから。私どもにとって国境がふたたび解放されることが重要ですが、在宅ワーク文化で旅行者と客足が減るのではないかと私は危惧しています。
インタビュアー:コロナ禍においても貴社はコモローファーのような革新的な新デザインを発表しました。ガジアーノ&ガーリングのデザイナーとして、今後どのような展開をお考えですか。
私は2つの方向から制作工程を考えます。ベンチメイドシリーズ、デコシリーズやクラシックシリーズなど定番シリーズの新しいスタイルを作りたいと思う一方で、新しいシリーズを作りたいと思うのです。
現在、オーダーメイドのハンドメイドシリーズを制作中です。お客様には通常のオーダーメイドシリーズからお選びいただきますが、靴は当社のビスポーク部門による完全なハンドメイドです。
通常のオーダーメイドシリーズからラスト、レザー、スタイルをお選びいただきます。完成までに数カ月お待ちいただきますが、ビスポークと同レベルの完全なハンドメイドの靴としては大変お得な価格になっています。
さらに、当社のオーダーメイドシステムに新色のヌバックレザーと当社が開発した新型ソールを追加した新シリーズ“ブルックランズ”を発表予定です。
ソールは驚きの履き心地を実現するウエッジソールです。カジュアル目のいい靴がほしいというお客様と履き心地がいいフォーマルシューズがほしいという外回りの多いお仕事のお客様、どちらのご要望にもお応えします。
外回りの多いお仕事のお客様には仕事ではスニーカーを履きドレスシューズに履き替えるという方もおられます。私どもはその溝を埋め、フォーマルでありながら快適に歩き回れる靴をご提供します。
インタビュアー:素晴らしいですね! 現在、アクセサリーの新シリーズも開発なさっているのですか。
そうなんです。靴と同じパティーヌ仕上げの財布と腕時計バンドを制作しました。二つ折り財布で靴と同じレザーとアリゲーターとリザードを使っており、すべてのパティーヌを手仕上げしています。
インタビュアー:パティーヌといえば、ガジアーノ&ガーリングの代名詞ともなっている鮮やかなパティーヌにはサフィールダイフレンチリキッドが使われていますね。新しいパティーヌを取り入れるご予定はありますか。
はい。当社では靴の仕上げにサフィールの製品を使用しています。すべての靴はサフィールノワールビーズワックスポリッシュとミラーグロスを使って手で磨き上げています。パティーヌにはサフィールのダイとクリームを使っています。今のところパティーヌを増やす予定はないのですが、お客様にお選びいただける豊富な色合いが揃っていると思います。
インタビュアー:高級靴メーカーにとって目下最大の課題は何でしょうか。
上質なアッパーレザーの調達だと思います。屠畜場で注目されるのは肉なので、動物の皮を剝ぐときにさほど注意を払わないんです。
皮は無造作にうっちゃられ、タンナーの手に渡るまで適切に扱われることはありません。これがレザーの傷などの問題を引き起こします。
もうひとつは、高級品業界が伸びていることです。世界のシューメーカーの数を考えても、上質のレザーの需要は着実に増加していますが、供給量はほぼ変わりません。
それに、タンナーが瑕疵をごまかそうとしています。先週、自分でビスポークシューズをカットしたんですが、仕上げでカバーされたレザーの傷が突如として現れました。
これは私たちにとってゆゆしい事態です。お客様は私どもにそれなりの品質を期待なさいますし、中にはレザーは独自の性質を持つ天然素材だということを理解なさらず、手作りの芸術品ではなく完璧に設計された製品を期待なさる方もおられます。ハンドメイドの靴のいいところは、メーカー独自の特徴やレザーのような天然素材の特徴が現れていることなのです。
インタビュアー:では、おもしろい質問をひとつ。ご自分で履きたいお好きなガジアーノ&ガーリングを教えてください。
形ならデコが大好きです。好きなスタイルは変わります。創作という作業の大部分は山のようにあるスタイルを検討することで、常に新しいものを探しています。なので、好みは変わる傾向がありますが、現代的なラストを使用したクラシックなスタイルが好きなのは変わりません。
私好みのコンビネーションは、スクエアトゥのデコのラストを使用したパンチドキャップトゥのオックスフォード“ケンブリッジ”だとお考えいただいて差し支えありません。ビスポークの要素が強く、私はブルーが好きなのでサファイアパティーナを選びました。先日、それに似たビスポークをアメリカのお客様にお作りしましたんですよ。
インタビュアー:セミブローグのオックスフォードはまさしく時代を超えて愛されるスタイルですね。あなたにとってなくてはならないシューケアの必需品をひとつ教えてください。
なくてはならない必需品はふたつあります。ひとつはいいワックスポリッシュ、もうひとつはラストに合わせたシューツリーです。つまり、形と保護です。シューツリーは形とフィットの維持に欠かせませんし、ポリッシュはレザーに保護効果を与えます。すべてのシューケア製品の中から私が選ぶのはこのふたつです。
インタビュアー:大変興味深いお話をありがとうございました! ガジアーノ&ガーリングとフットウェア業界全体の現状を垣間見ることができました。
トニー・ガジアーノ氏にたっぷりと語っていただいてますが、いかがでしたか?
イギリスでは、新型コロナウィルスの影響だけではなくEUを離脱したことからも、様々な対応が必要になっているようです。
しかし、そういった局面を迎えてもなお、新しいシリーズを生み出し、新作を発表したりなど、お客様へ素晴らしい靴を提供し続ける姿勢は、サフィールと共通しているところかと思います。
そして、サフィール製品はパティーヌでも仕上げでもあらゆるシーンで使われており、シューメーカーにとって最強のパートナーといえるのではないでしょうか。
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