前回は染料の塗布方法などパティーヌの基本についてお話しました。
今回は手染め仕上げの下準備から仕上げまでの工程をご紹介していきます。
工程を紹介するにあたり、今回サンプルとして染めたものは「LCA メタルシューホーン ショート シルバー / ベジタル」という商品です。コルドヌリ・アングレーズ(略称 LCA)という、シューツリーを始めとした総合シューケアブランドから発売されているゴールドの金属ヘラ部分にヌメ革の持ち手の付いたシューホーンです。携帯するのに程よいサイズかつヘラ部分の長さをしっかりと取った大変使い勝手の良い上質なシューホーンで、このまま使ってもヌメ革部分が飴色になっていってなかなかの風合いを醸し出すのですが、今回はあえてこの持ち手の革の部分を染めていきます。
まずは塗布面についた汚れや仕上げ剤、クリームやワックスを取り除きます。汚れは仕上がりに影響しますし、仕上げ剤など染料を弾いたり、浸透を妨げたりするものは色ムラなどの原因となりますのであらかじめ“レノマットリムーバー”や“ダイリムーバー”で取っておきます。
パティーヌは淡色から濃色を塗り重ね、また複数色を差し色として入れていき、それを数度繰り返すことで色の重なりによる深み・奥行きを出していきます。
その仕上がりイメージの下地、ベースカラーとなる“ダイフレンチリキッド”をまずは塗布します。ブラウン系ならベースイエロー、ネイビーブルーならベースブルー、バーガンディならベースレッド、といった感じに、仕上がりイメージに対して同系色かつ明るい色がベースカラーとして最適です。真っ黒に染めるときでも染料のブラック色だけでは革本来の明るい色が下地として生きてしまい、思う通りの黒さにならないことが多いです。したがってベースカラーとしてグレーやベースパープルなどを先に塗布しておくと黒の深みを出しやすくなります。
ベースカラーはムラなく塗布しておくことで、最終的な仕上がりのムラ感を抑えることになります。
とはいえ、あえてムラ感を残しておくのも表現の一つですので、この辺はお好みで。
ベースカラーを塗布したら、順にダイフレンチリキッドを塗り重ねていきます。
単色で仕上げる場合は、このまま希望のカラーの染料を上塗りします。前回記事で触れたように、塗る道具・液量・塗り重ねる回数によって濃淡が変わりますので、自分のイメージ通りとなるように塗布を繰り返します。
複数色を塗り重ねる場合は、「薄い・明るい色」から「濃い・暗い色」の順に塗り重ねます。色の重なる部分は双方をぼかすように塗布していくと重なった部分が2色の中間色のように発色します。
イメージ通りの染めができたら、しばし乾燥させます。
乾燥させることで、塗りムラや塗り残しなどが浮かび上がってきたら手直しをしておきます。
続くパティーヌの仕上げは、靴と革小物で少々異なります。
●靴の場合
靴の場合、特にドレスシューズであればクレム1925やファインクリームを使い、アルコール染料の影響で抜けた油分の補給とワックスによるツヤ出しをします。この時、基本的にはニュートラルを使いますが、もし色の補正を必要とするならカラーのクリームで微妙な色合いの調整をすることもできます。
カラーのクリームを使う際は、補色効果で染料仕上げ特有のぼけ感、ムラ感、ぼかしが薄れますので、塗布量や塗り方に注意します。
次にポリッシュで全体のワックスコーティング、お好みでハイシャインをします。
光沢感と同時に色止めの効果も発揮しますので、ハイシャインまではしないまでもポリッシュを適量靴全体に塗布しておくのがおすすめです。
クリームと同様にニュートラルを使用するか、クリームほどの強い補色効果はないので、フォーンやグレー、マホガニーといった靴の色に合わせた淡色系のポリッシュの使用も有効です。
靴であれば、常時こすれるのがパンツの裾くらいなので、色止めはさほど重要ではありませんが、もし色の移染などが気になる場合は、クリーム塗布の後に色止め剤“タラゴ ウォーターベースラッカー”を数度塗り重ねておくと色が落ちにくく、色移りもある程度防ぐことができます。
●革小物の場合
今回サンプルで使用しているような革小物の場合もまずは抜けた油分の補給が必要となりますので、それに適したケア用品を使用します。ツヤを出したい場合はクレム1925のニュートラルが最適です。マットに仕上げる場合はワックスを含まないスペシャルナッパ デリケートクリームがよいでしょう。
靴とは異なり、かばんの中やジャケット、パンツなどと擦れたり、汗などで湿ったりしやすく、衣服や家具などへの色移りが起こりやすいです。したがって色止めは必須と思ってください。クリーム塗布後にウォーターベースラッカーを塗布するのですが、2~3回程重ね塗りをすることでしっかりと表面をコーティングできるので上記のような色落ちのリスクを軽減することができます。
ただし色落ちは100%回避できるものではありませんので、色の薄いパンツのポケットに入れたり、無造作にかばんにつっこんだりは禁物です。
なおウォーターベースラッカーには、ツヤを出す「グロス」とツヤを出さない「マット」の2種類あります。好みや仕上げのイメージに応じて使い分けることができます。
以上、パティーヌの工程についてご紹介してまいりましたが、いかがでしたでしょうか?
「難しそうだな……」とか「失敗が怖い……」とか「センスがないから……」とかついついいろいろと考えてしまいますが、少々の失敗はあとからでも十分手直しができますし、そもそも染め仕上げには「染め直し」や「染め替え」ができる、というメリットがあります。
使っているうちに生じる色あせ・色抜けは再度パティーヌ仕上げを施せば、元通りの色合いに戻すことができますし、一度色を抜いてから再度別色でパティーヌをする染め替えで、満足のいく出来になるまで染めることができます。一度染めてしまうと色は完全に抜けるものではないですし、濃色で染めてから淡色に染め直すことは困難ではありますが、使い慣れてくれば思い通りの仕上げができるようになってきます。
何より自分が染めた自分だけの逸品を手にするということは染め仕上げ・パティーヌに挑戦する大きなモチベーションになります。
と、いうわけでぜひ皆様にもパティーヌを体験していただきたく、ついにサフィールの染料“ダイフレンチリキッド”の一般販売を開始いたします。
D.I.Y好きな方や革製品が大好きな方、ご自分で手持ちの革製品の補修をしてみたい方などこの機会にぜひセルフパティーヌを体験してみてください。
関連記事
ダイフレンチリキッドなどのご購入に関しては、下記ご案内に記載の店舗へお問い合わせください。
本記事で紹介した商品はこちらで購入できます。
おすすめの関連記事