コードバンケアの基本中の基本について、前回ご紹介しました。
コードバンは油分を多く含む特殊皮革で、抜けた油分をいかに補うかがケアの重要なポイントである、ということをお伝えしました。
他にコードバンのお手入れの悩みで、毛羽立ちや色抜け・色あせです。
どちらも油分の抜けと同時に起こるものですが、症状が進むと基本的なお手入れ方法では十分にケアできない場合があります。
そこで今回も先日の第11回 インスタライブで取り上げた“コードバンケア”の応用編をご紹介してまいります。
コードバンの靴を履いていると、ツルンツルンの靴表面のうち、まず最初に履きジワの部分からだんだんと光沢がなくなり、白けてきて、そしてざらざらと毛羽立った感じになってきます。
「毛羽立ち」と安直に表現していますが、これ、まさにコードバンの革が毛羽立っている状態なんです。
コードバンは、コードバン層という繊維層を削り出し、グレージングという工程を経て光沢を出している革です。
(詳細はコードバンとは、いったいどんな革なのだろう。をご参照ください)
したがって、グレージングで押しつぶされたコードバンの表面は歩行時に履きジワ部分が何度も屈曲を繰り返されることによって、徐々に起毛(=毛羽立ち)してきてしまいます。
押しつぶされて平滑になっていた部分の繊維が凹凸に毛羽立つことで、ツヤは失われて、次第に乾燥が進んでいき、白けていってしまうのです。
よって、コードバンの履きジワは、まずはふたたび押しつぶし、真っ平らにしてあげる必要があるわけです。
ではどのような物を使えば、毛羽立ちを抑えることができるのでしょうか?
使用する道具の注意点は、
適度に力を加えて、毛羽立ちを押しつぶすということを手動で行うわけですが、できるだけ平滑で凹凸がない道具を使いたいところです。
身近にあるもので言うと、シューホーンなどの丸みを帯びている方を履きジワに当ててゴシゴシこすります。
この時、手首を返してシューホーンの縁・エッジの部分を立ててしまうと、靴表面を削ってしまうのでご注意ください。
「そんなん、怖くて使えないよぅ………」
とお嘆きの貴方、まだあきらめるのは早いです。
この工程におすすめの道具が他にあります。
これは、“かっさ棒”です。
かっさ棒は水牛の角で作られたツボ押しやマッサージに使う道具です。
人の肌を突いたり、擦ったりする用途で作られていますので非常に滑らかであたりのよい表面をしています。
このかっさ棒を使って、毛羽立ち部分をゴシゴシこすりつけて毛羽立ちを寝かせてあげるのです。
簡易的なグレージング、というイメージですね。
この時、本当は先に油分を入れてあげると効果的なのですが、色の薄いコードバン革の場合、油分の影響で毛羽立ち部分が濃くなってしまう場合があります。
なので、まず先に適度に毛羽立ちを押さえてからコードバンクリームで油分・ワックスを補って再びかっさ棒でコードバン表面を整える、という手順がより安全です。
以上の工程をしばらく続けていると、徐々に白く毛羽立った履きジワが周囲と同じような元々の光沢感に戻っていきます。
最後にビーズワックスポリッシュで全体に光沢を出してあげれば、履きジワの白さ・毛羽立ちを見事改善することができます。
もちろんかっさ棒は全体をならすのにも最適です。妙な凹凸など気になる部分が出てきたら「表面をこすってならす」工程を試みてください。
コードバンの靴を履いていて気になってくるのが、色あせ・色抜けです。
きちんと定期的にメインテナンスしているのに、なぜかだんだんと元の色が薄れてくるように感じます。
これはコードバン元々、コラーゲン繊維の層である網状層から削り出すため、含んだ油分が抜けやすいのと同時に、革の色味が退色しやすい傾向があります。
抜けた色味はコードバンクリームの補色効果でも十分目立たなくすることはできますが、特に染色仕上げのコードバンに関しては色が大きく変化します。
そこでおすすめなのが、パティーヌなど革の染色に用いるサフィールの染料「ダイフレンチリキッド」です。
ダイフレンチリキッドは一般的なスムースレザーだけでなく、スエードやヌバック、エナメルに加え、コードバンの染色も可能です。
実際にインスタライブ中では、薄くなってしまった部分をダイフレンチリキッドで染め直してみました。
コードバンの染め直しの際にご注意いただきたいのは、ダイフレンチリキッドはアルコール染料なのでコードバンが乾燥してしまう点です。
なので、コードバンの染色後には必ずしっかりと油分補給をして、ポリッシュによる光沢仕上げをし直す必要があります。
写真の通り、ダイフレンチリキッドによる染色後でも、仕上げ直しときちんとすればコードバンの光沢感が失われることはありません。
元々の色より薄くなってきた気がする……、と思ったら染め直し・染め替えを試してみてはいかがでしょうか?
コードバンのお手入れについて基本~応用までご紹介してまいりました。
革の作りが一般的なスムースレザーと異なることと、製品の価格が高いので、手にするのにどうも敷居が高く感じてしまう素材ですが、この独特の光沢感や風合いは人を惹きつけて離すことがありません。
もしケア、メインテナンスが自分にもできるかどうか心配であれば、今回の連載記事をご参考にしていただければと思います。
もちろんプロのシューシャイナーたちに定期メインテナンスを依頼する、というのも選択肢の一つです。
前回のインスタライブを含め、ご紹介したポイント・注意点に気をつけて、ぜひ一生モノのコードバンの靴、製品を手にしてみましょう!
今よりもっと革製品が好きになることは間違いありません!
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