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飯野高広の
“サフィール・タラゴと歩む 革靴さんぽ道”

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飯野高広の
“サフィール・タラゴと歩む 革靴さんぽ道”

公開日:2024/10/25 / 最終更新日:2024/11/14

飯野激推し! クレム1925のネイビーブルーとペトロールブルー

筆者・飯野も運営に関わっている「靴磨き選手権大会」でプロアマ問わず大多数の参加者が愛用する、サフィールノワールの代表選手クレム1925。革靴のアッパーのコンディションをハイレベルに整えると共に綺麗な艶も出せ、確かに革靴好きなら必ず持っていなくてはいけないお手入れ用品と断言できます。体温でサラッと溶けてしまうので、革靴に布やブラシではなく少量を指で直接塗り込めてしまうのもありがたいですね。これは主成分であるシアバターの融点が、体温前後だからこそなせる業。このページをご覧の方ならもちろんご存じでしょうがクレム1925が油性、つまり水分を含んでいないにも関わらず乳化性クリームと同様に保湿性が高いのも、主にこのシアバターのお陰です。

 

万能選手のニュートラル(無色)もさることながらこのクレム1925、真骨頂は色付きのものだと筆者・飯野は考えています。まず、どの色も靴クリームと言うより絵具や色鉛筆あるいは万年筆のインクを思わせる繊細な色感で、流石芸術大国・フランスの生まれと思わせてくれるから。更にはムラ無く自然な補色が可能だからでもあります。嘘みたいですがクレム1925の色出しは「色が浸透する」染料ではなく、「色が載る」顔料がメインだそう。ですが、それ主体のタイプにありがちな平板でエッジが立つような仕上がりには決してならないので、相当粒子が細かい高品質なものを用いていると思われます。

シアバター配合 油性なのに乳化性のように使える靴クリーム クレム1925

芸術大国・フランス産まれだけのことはある、美しい色合い

 

で、色付きが現在では23色ある中、特に筆者・飯野が近年使用度急上昇中なのが、今回ご紹介する「ネイビーブルー(色番06)」と「ペトロールブルー(同 46)」です。どのような色なのかは下の写真をご覧頂きましょうか。

← 06ネイビーブルー / → 46 ペトロールブルー
サフィールノワール クレム1925 06 ネイビーブルー
サフィールノワール クレム1925 46 ペトロールブルー

向かって左・従来からの大定番である「ネイビーブルー」は、他社の同名色の靴クリームに比べ少々緑みを感じさせてくれる、瑞々しくも上品な紺色。一方、日本では2023年にデビューした「ペトロールブルー」はそれに比べくすんだ、と言う以上にグレイッシュな印象が前に出る、他に比較例のない華やかな青緑色なのがお判りいただけると思います。因みに後者は英語で書くと“PETROLEUM BLUE”となるのですが、この“PETROLEUM”って、イギリス英語で「石油」の意味になんですよね。同国の石油・エネルギー大手として知られるBPPもこの“PETROLEUM”を略したものです。が、石油って、青緑色かな? むしろコーヒーブラウン的な印象が強いのですが…

 

もちろんこの2色のクレム1925ドンズバ系の色合いの革靴に用いるのがまずは正攻法です。以前からの定番色である「ネイビーブルー」は、ジェイエムウエストンの名作・180ローファーの同色を、文字通り「大人が履くのに相応しいローファー」に格上げしてくれます。前回のコラムでも掲載した私物は、正にこれで定期的なお手入れを続けたもの。一方、近年登場した「ペトロールブルー」は日本でこそまだ馴染みの薄い色ですが、欧米では性別を問わず使えるとしてここ数年非常に注目を集めていて、この色感でパティーヌされた靴に陰影を付ける際には重宝すること確実です。こちらはコルテの靴とかで似合いそうな色だなぁ

J.M.ウェストンの名作、180ローファー

黒の靴にも使ってみるのが、実は超オススメ

 

しかし筆者・飯野はこの2色、別の意味合いも込めて商品化されたのではないかと勝手ながら       踏んでおります。恐らく「黒の革靴のニュアンス付けにも、いやそれにこそ使ってほしい」のではないかと。これもご存じの方が多いと思いますが、クレム1925のブラック(色番 01)は若干、赤み・茶色みを帯びた独特な黒色です。下の写真でご確認願います。

 

クレム1925 01 ブラックは若干赤み・茶色みを帯びた独特な黒色
サフィールノワール クレム1925 01 ブラック

前述した通り色ムラが出難いので、黒の紳士靴を華やかに纏めたり、場合によっては焦げ茶やバーガンディ色の革靴をアンティーク仕上げしたい時にも使え、これはこれで無二の傑作なのです。和服の「後染めの黒」にも通じるところがあると思います。でも別のニュアンス、例えば同じ黒でも「青みのある黒」に仕上げたい人も中にはいるはず。「ネイビーブルー」と「ペトロールブルー」のクレム1925は、そのような嗜好を持つ人もターゲットに作られたのかな?との感を私は抱いております。論より証拠、実際に黒の革靴に使ってみましょうか。まずこの靴に素直に「ブラック」を入れた場合は以下の写真のようになりますのでご参考までに。

素直に「ブラック」を入れた黒の革靴

そして前述の2色を入れた場合が、こちら。

左にネイビーブルー、右にペトロールブルーを入れた黒の革靴

実物の方が差は歴然なのですが、写真だけでもニュアンスの違いが結構ご理解いただけるかと思います。向かって左(右足)・ネイビーブルーを塗ったほうは精悍な、というのかバシッと鍛え直されたかのような印象が前に出てきていますよね。対照的に向かって右(左足)・ペトロールブルーで仕上げたほうは、より「馴染んだ」ような、温和で柔らかな見え方に仕上がっています。どちらも変な色ムラなく極めて自然に「黒」に纏めているのは流石クレム1925の力です。

通り一遍ではない色味を愉しもう!

 

では、より具体的にはこれら2色を、どのような黒靴に用いると楽しいか? 幾つかアイデアを提起しておきましょうか。ヒントは前述した通りクレム1925の色出しには、粒子が極めて細かい顔料を上手く用いていること。つまり、革の色とは微妙に異なるものを用いても色ムラが起こり難く穏やかに変化するのを応用します。

 

① 長期間履き込んだ黒の革靴を、微妙にイメージチェンジしたい時。

良い感じに経年変化を遂げた黒い革靴のお手入れに、3回に1回程度を敢えて「ブラック」ではなく、好みに応じて「ネイビーブルー」や「ペトロールブルー」を使ってみましょう。これを繰り返すと、普通の黒ではない「自分だけの黒色」の革靴に育てられること確実。色味の奥深さに気付けた分、飽きずに履き続けられるのではないでしょうか。

 

②新品時から灰色っぽいニュアンスを有した黒靴を、楽しく経年変化させたい時。

「はっ?」「えっ?」「何トチ狂ってること言ってんだ飯野」と思われる方もいらっしゃるでしょうが、実は結構多いんです、色名こそ「黒」だけど実際はダークグレイかな?と思わせてくれる革を用いた靴。特に撥水レザー系は恐らく下処理の影響なのでしょうか、むしろこのような「黒になりきれない黒」のほうが主流かも? だったら…ということで、下の写真をご覧下さい。

「黒になりきれない黒」の革靴を楽しく経年変化させるには

こちらは日本のビジネスマンの足元を支え続けるスコッチグレインの屋台骨、撥水レザーを用いた「シャインorレイン」の黒を、昨年の購入時からクレム1925のペトロールブルーでお手入れし続けているもの。元来の色は明らかにグレイ味が強かったのですが、ご覧の通り万年筆のインクで言うところの「ブルーブラック」っぽく華やかに変化してまいりました。雨天時に足元が暗過ぎると、心理的に落ち込みがちになりませんか? そんな時にこの靴を履くと、不思議と気分がアガるのです。

フォーマルユースに用いられ遊ぶ要素が少ないとされる、黒の革靴。でも、クレム1925の「ネイビーブルー」と「ペトロールブルー」をこのように上手く用いると、履きたくなるシーンを確実に広げられます。騙されたと思って一度お試しあれ!


 

SaphirNoir(ノワール)クレム1925
SaphirNoir(ノワール)クレム1925
微細な顔料を高濃度に配合、革の風合いを活かした色づきが特長です


 
  • 服飾研究家

    飯野 高広 Takahiro Iino

    1967年東京生まれ。大学卒業後大手鉄鋼メーカーに11年勤務したのち、服飾研究家として独立。この分野では出身がファッション業界でもメディア業界でもない特異な存在としても知られ、紳士靴やスーツなど主に男性の服飾品全般を、ビジネスマン経験を活かした楽しくかつ論理的な視点で解説するのが特徴。
    出版では、紳士靴関連では2010年に出版した『紳士靴を嗜む:はじめの一歩から極めるまで』(朝日新聞出版)が今日まで版を重ねるロングセラー。紳士服関連でも2016年に出版した『紳士服を嗜む:身体と心に合う一着を選ぶ』(朝日新聞出版)が類書に無い内容の濃さで好評を博している。
    近年はWEBやTVにも活躍の場を広げており、2015年にはTV番組「マツコの知らない世界」に「靴磨きの世界」のガイド役としても出演。NHKテレビ「美の壺」では2018年11月放送の「粋を極める 男の靴」の回に出演、2023年12月放送の「品格をまとう スーツ」の回でも総合監修を行った。また、2006年から専門学校で近現代ファッション史の講義も担当し、スタイリスト業界に中心に多くの教え子を輩出し続けている。

Le Beau
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