今とはまるっきり異なる、35年前のパリ
サフィールの商品を初めて見たのは、まだ大学生の時。好奇心だけで貧乏旅行をしていたパリの街角でした。そうそう初めてのパリ、まだユーロスターなんて走ってない時代。国際列車とドーバー海峡フェリーを乗り継いで、ロンドンのヴィクトリア駅から丸一日掛けてパリ北駅までたどり着いたお上りさんでしたよ。ミーハーに凱旋門やエッフェル塔はもちろん、シャガールが描いた天井画見たさに旧オペラ座(通称オペラ・ガルニエ:ミュージカル「オペラ座の怪人」の舞台、そして革靴好きにはHERMÈSのJOHN LOBB にあるフォーマルプレーントウの名として知られていますね)やルーブル美術館も、あの時が初めてだったっけ。ちょうどフランス革命二百周年直後、その記念にルーブルには例のガラスのピラミッドができたばかりでした。当時は大分異彩を放っていましたが、今はすっかり周囲と馴染みましたね。
もちろん服飾ブランド探検も欠かせません。80年代の後半・終盤には「フレンチトラッド」とか「BCBG(フランス語でBon Chic Bon Gerneの略。育ちの良さそうで上品な、的な意味)」なるファッションに勢いがありました。私・飯野は当時も今も、基本はアングロサクソン系のトラディショナルな装いで通していますが、それにも少々影響を受けています。内装も商品もイギリス以上にイギリス的な雰囲気だった今や幻の伝説・OLD ENGLANDや、ニース生まれらしい華やかな色彩に惹かれたFAÇONNABLE、創業者本人が接客してくれたDANIEL CREMIEUX、英国製でなくフランス製のステンカラーコートをここで買わなかったのを後々悔やみまくったBURBERRYS'… 無名ながらもセンス抜群のお店もまだまだ沢山ありました。
もちろん靴屋さんも果敢に訪問し、最初はJ.M.WESTON。ちょうどSHIPSさんでの取り扱いが知れ渡った頃で、フランス靴と言えば問答無用にJ.M.WESTONでしたから。当時のシャンゼリゼのお店が、ロバート・キャパがパリ解放の際に撮った写真とまだ同じ場所だと気付いた時は感極まりましたよ(今は移転しています)。あと、日本にも僅かに入っていたBOWENで重戦車のような一足に驚愕。今でいう「トリプルソールダブルウェルト」のUチップで、二周するウェルトが今でも夢に出て来るほど強烈な印象でした。今では革靴好きなら知らなきゃモグリのPARABOOTやBERLUTIはまだ全く知らず、CORTHAYはブランド自体が未だ無かった筈。ただ、何せ貧乏旅行です。悔しいですが服も靴も指をくわえてただただ見てるだけ。美術館で見る絵や彫刻と似た感じで眺めた数日でしたね。