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【社会活動】靴を通して子供たちに伝えたいこと-Shoeshine Chum’s Bar 渡辺 力【サフィールフレンズ】

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公開日:2023/03/29    /  最終更新日:2023/11/29

【社会活動】靴を通して子供たちに伝えたいこと-Shoeshine Chum’s Bar 渡辺 力【サフィールフレンズ】

Shoeshine Chum’s Barの全景

 

JR逗子駅の東口を出て、レトロな雰囲気がたまらない逗子銀座商店街をゆっくり10分ほど歩けば見えてくるのが、海辺の町によく馴染む白と青が基調の『Shoeshine Chum’s Bar(シューシャイン チャムズ バー)』だ。

 

店舗の扉を開けると、「お待ちしていました」と親しみやすい笑顔で出迎えてくれたのは、オーナーの渡辺力氏である。

お客様から預かった革靴のお手入れの最中だった様子で、「これだけでも終わらせないと、明日から大変で()」と嬉しい悲鳴をあげた。

店内を見渡すと、床を埋め尽くすほどのダンボールや紙袋があちこちに散乱しているが、そのすべてがお客様からの靴磨きや修理の依頼品というわけではない。

 

Shoeshine Chum’s Barオーナー・渡辺力氏

Shoeshine Chum’s Barオーナー・渡辺力氏

数年前より、渡辺氏は精力的に福祉貢献に取り組んでおり、県内の養護施設の子供たちへ寄付支援する活動を続けている。

店内に置かれた大きなダンボールには、その活動を支援する方々から有志で集まった寄付の物資が詰め込まれていた。

渡辺氏の元には、毎月100から150足の靴が全国から届けられる。

 

「横須賀市の少年サッカー協会さんが、サッカーの試合で“靴サンタプロジェクト”と書かれた回収ボックスをグラウンドに置いて不要品を集めてくれているんです。

そのおかげもあって、今月は寄付品がいつもよりも多く集まっています。」

 

少年サッカー協会は、渡辺氏の活動に賛同した知り合いが直々に協会理事長を紹介してくれたそうだ。

渡辺氏の福祉に対する想いが、壮大なスケールで広がり始めている。

 

 

少年サッカー大会のグラウンドに置かれた“靴サンタプロジェクト“ボックス

 

人のためにできるんだったら、こんなに楽しいことはない

 

渡辺氏のボランティア精神が開花したのは、少年期にまで遡る。

 

「高校生の時に野球をやっていたのですが、椎間板ヘルニアでドクターストップがかかりました。

ドクターに、野球を続けて車椅子生活になるか、野球をやめて普通に歩ける生活をするかの二択を迫られ、悩んだ末、プロ野球選手になれる確約もないし、ずっと続けてきた野球をやめる結論を出しました。

それでも野球には関わりたいと思い、中学生のコーチを始めたが、選手が怪我をした時の処置の仕方が全然分からなかったので、図書室に行ってテーピングや治療の本を借りてたくさん勉強したんです。

その辺りから、利益を求めるのではなく、人のためにできるんだったら、こんなに楽しいことはないなって思うようになりました。」

 

芽吹いたボランティア精神は、大学生、社会人となっても萎むことはなく、現在のような本格的に活動を始めたきっかけは、新型コロナウイルスが蔓延し、1回目の緊急事態宣言が発令された2020年のことだった。

 

「コロナで客足が遠退き、お店を閉めようかとも思ったけど、家族もいるし生活しないといけない。それであれば、僕らよりも困っている人たちの力になれる場所にお店を使ってもらおうという考えに行きつきました。

1回目の緊急事態宣言の時は、農家さんが野菜の出荷先がなくて困っているという話を聞きつけ、“それなら、うちを八百屋化しちゃおう”と思い、『うちが野菜を買うから、それを販売していいか?』という話を農家さんに持っていったら、『全部処分になり勿体なくて困っていたから、ぜひお願いしたい』と。

それであればと、仕入れた値段そのままで、うちの店頭で売ることにしました。

別に宣伝活動をしようとかそういうことではなくて、お店で農家さんを助けるイベントとしてやりたかったんですよ。」

 

 

 

靴磨き職人が磨いた靴は、子供たちへと繋がる

 

緊急事態宣言が明け、一旦は以前の日常を取り戻した農家の支援も不要となった頃、養護施設の園長から「子供たちの靴が全然足りない」という話が舞い込んできた。

渡辺氏はすぐに靴の寄付を募り、クリーニングやメンテナンスをして届ける活動を試してみることにした。

 

「始めてみると、意外にもお客様からの反応がすごく良かった。

靴を持ってきてくれる方が増えてきたので、今のようにひとつの施設だけじゃなく、神奈川県内の様々な施設に寄付を配れるような団体にしていこうと、活動に賛同してくれる仲間たちとNPO法人を立ち上げました。(申請中)

そこにルボウ(サフィールの日本総販売代理会社)の沖本社長にも賛同してもらえたので、どんどん自分みたいな靴磨き職人が地域の子供たちに靴を配り、靴を通して色々な繋がりが増えていく活動がしたいと思っています。」

 

児童養護施設 春光学園

児童養護施設 春光学園

渡辺氏が養護施設を訪れるのは、月に1回ほど。店を閉めた後、片道30分の道のりを自らが運転する。

この日取材で訪れたのは、横須賀市にある児童養護施設・春光学園。

家族と暮らすことのできない2歳から18歳(高校生)までの子どもたちの成長と自立をサポートしている。

渡辺氏が訪れる時間帯、中学生以上は部活や習い事で不在のため、寄付品を渡す相手は基本的に幼児や小学校低学年の子供たちとなる。

 

「子供の成長は早い。どんなに寄付していただいても足りないから、“そろそろ渡辺さん来てくれないかな”って思っていたところだったんですよ」と穏やかな表情で話すのは、施設の児山園長だ。

子供たちも渡辺氏の来園を楽しみにしており、「靴の人だ!」と駆け寄ってきてくれるという。

 

児童養護施設 春光学園
児童養護施設 春光学園

車と施設を何往復もして寄付品を抱えて運び、大量の寄付品は台車へ乗せられた。

台車を押して児山園長の後をついていくと、15名の子供たちが待つ教室へ案内された。

 

「皆さん、渡辺さんが来てくれましたよ」

 

児童養護施設 春光学園

ほとんどが就学前の幼い子供たちだが、その一言で皆が綺麗に横並びに座る。ご機嫌斜めなのか駄々をこねる子もいたが、それもとても子供らしい。

綺麗に並ぶ子供たちの前に、Shoeshine Chum’s Barから運ばれた寄付品がズラリと並ぶと、教室の窓が割れんばかりの大きな声で「こんにちは!」と一斉に挨拶してくれた。

 

「今日も皆さんのために色んな人たちから集めた靴や服をたくさん持ってきました。」

 

渡辺氏が挨拶を終えると、子供の1人から「今日は手渡ししないの?」という声が上がった。

寄付品をひとりひとりに手渡しする恒例行事を子供たちは楽しみにしているのだろう。

「今日はたくさんあって、手渡ししていたらみんなのご飯の時間になっちゃうから、仲良く好きな物を選んでください」と渡辺氏が答えると、まるでプレゼントに飛びつくかのように全員が寄付品へ手を伸ばした。

 

児童養護施設 春光学園

ダンボールや紙袋の中には、スニーカーや革靴、これからの季節にピッタリのTシャツやトレーナーなどが入っていた。

誰もが知っている有名ブランドの箱に大切に保管されている様子を見ると、寄付した方々の慈善心がひしひしと伝わってくる。

集まったこれらの靴は、すべて渡辺氏が1足1足丁寧にクリーニングしているから安心だ。

 

児童養護施設 春光学園
児童養護施設 春光学園
児童養護施設 春光学園
児童養護施設 春光学園
児童養護施設 春光学園

お目当ての靴や服が見つかると、さっそく試着してみる子供たち。

カメラを向けると、「撮って!」と無邪気にポージングまでしてくれる。

撮影の様子が気になるのか、カメラを構える私の隣で静かに寄り添っていた女の子に「撮ってみる?」とシャッターボタンを託すと、嬉しそうに小さな指で押してくれた。

 

驚いたのが、どの子も初めて会う私に対して一切の警戒心がなく、可愛らしい笑顔で歓迎してくれたことだ。

養護施設という場所で育つ子供たちに、哀憐の情を覚えていた自身の勘違いを恥じた瞬間でもあった。

子供たちは皆、この場所で園長を始めとする大人たちに見守られながら、集団生活でコミュニケーション力を培い、明るい未来のために成長を続けている。

 

2年前から子供たちの成長を見守ってきた渡辺氏も、「前に会った時よりも大きくなっている。まだ赤ちゃんの顔をしていたのに」と目を細める。

 

渡辺氏(手前)と春光学園の児山園長

渡辺氏(手前)と春光学園の児山園長

1時間ほど滞在し、「ありがとうございました!」と大きな声で見送ってくれる子供たちに別れを告げ、施設を後にした。

 

帰りの道中、渡辺氏は子供たちの反応を振り返りながら、「いつもめちゃくちゃ喜んでくれるんですよ。あれだけ喜んでくれるから、やりがいがありますよね。」と微笑みながら、自身の活動についての想いを吐露してくれた。

 

「この活動に関して、『なんでお金にもならないことを一生懸命やっているの?』と言う人もいるんですよ。

でも、そういう一部の人たちの意見を聞いていても仕方ないし、別に勝手に思っていればいいじゃん?って思っています。

幸い、自分の周りには賛同してくれる人が多くて、靴の修理部材を仕入れている企業から、子供たちにとインソールを無償で送ってきてくれることもあったり、遺品整理をやっている仲間には、現場で子供用の自転車があったら連絡をもらえるようになっていたりと、すごく周りに支えられています。

子供の自転車は取り合いになって数が足りないので、そういう物も僕のお店まで持ってきてほしいです。」

 

渡辺氏は子供たちに大人気だ

渡辺氏は子供たちに大人気だ

 

社会人になるためのサポートをする“シェアハウスの建設”

 

NPO団体が立ち上がった後は、子供たちの将来をサポートしていくべく大きなプロジェクトも待ち構えている。

 

「養護施設の子供たちも、高校生になったら就職するか進学するかを決めなきゃいけないけど、なかなか就職先が見つからないという話を聞きました。

なので、賛同してもらっている企業さんに『こういう子がいるんですけど』と、子供たちと企業を繋げる活動も今後はしていけたらいいな。」

 

原則、高校を卒業する18歳になると養護施設を退所しなければならない。

しかし、親が引き取れない環境の子供は行き場をなくし、道を踏み外してしまうことも珍しくはない。

そこで渡辺氏が提案しているのが、退所後に住むことができるシェアハウスの建設だ。

 

NPO法人として立ち上がったら、クラウドファンディングでリフォーム代の資金を募る予定です。

空き物件をシェアハウスに作り替え、退所後に行き場のない子供たちが、保証人不要で生活できる場所を準備してあげたいんです。

高校を卒業すると、まず住むところを探さないといけないけど、保証人がいなくて家を借りられない子が多く、1人暮らししている友達の家に転がりこんでしまう。

それはそれで本人が幸せならいいんだけど、悪い仲間の影響を受けてしまったり、女の子だと不本意な妊娠をしてしまったりして施設に相談に行くけど、施設としては退所した子たちのサポートはできないから困っているという話を聞きました。

それだったら、シェアハウスに住んで、アルバイト先が見つからないなら団体の会員さんの企業に橋渡しをしてあげて、社会人になるためのサポートをする場所を提供してあげたい。」

 

Shoeshine Chum’s Barオーナー・渡辺力氏

養護施設で育った子供たちの姿に、渡辺氏は自身の過去を重ね合わせている。

 

「養護施設で育った子供たちは、社会に出ると自分で“自分は施設で育ちました”という殻を作るんです。それを僕はぶっ壊したい。

実は、僕もこの辺りでは、誰もが知る大きい会社の息子という見方をされる。“あなたはボンボンですよね”って。

それが嫌で、人生の最後はやりたい仕事をやりたくて、会社を辞めてこの世界に飛び込みました。だから、彼らにもその殻を壊してほしい。

社会に出たら、どんな環境で育とうが、どこの学校を出ていようが、社会人としてのスタートラインはみんな一緒ということを教えてあげたいんです。

養護施設を出た子と話す機会があった時に、『社会に出たら、みんな同じ大人だから育った環境なんて関係ない』と伝えてあげたら、彼らもスッキリしていました。」

 

子供たちが後悔しない生き方をするために

 

養護施設の子供たちにとって、渡辺氏との出会いは今後の人生においてどのような変化をもたらすだろうか。

 

「自分の人生は自分でしか作れないので、自分がどうしたいのか、どうなりたいのかを見つける大切さを教えてあげたいです。

今までは養護施設という環境に守られていた。でも社会に出ると、その守ってくれていたモノがなくなってしまう。

悪い友達とつるんだら悪い道に行く。それが楽しいっていうのであれば、それはその子の人生だけど、あとで後悔しないような生き方をしてほしいんです。」

養護施設を退所後、靴磨き職人を志す子供がいれば引き受けるつもりだと話す渡辺氏。

Shoeshine Chum’s Barでは、どんな志望者を求めているのだろうか。

 

「施設出身者でも、障がいのある方でも、靴が好き、靴を磨いてみたいという興味だけでいいと思っています。

そうはいっても接客業なので、働くうえで守ってもらわなきゃいけないルールはあるから、そこは甘くするつもりはないですよ。

神奈川は靴磨きや修理のお店があまりないので、そういう子たちが興味を持ってやりたいと言ってくれるのであれば、ゆくゆくは職人を育ててお店を増やし、彼らの働き口を与えていけたらいいな。」

 

将来受け継がれるかもしれない渡辺氏の“靴磨き”

将来受け継がれるかもしれない渡辺氏の“靴磨き”

 

職人としての喜びや苦労も教えていくつもりだ。

 

「僕は腕一本で職人の道に入り、企業に勤めていた頃よりも苦労はしていますけど、自分の好きなことを仕事にしている楽しさがあるから、靴を通して子供たちに、“会社で働くだけじゃなく、色んな選択肢が持てる”ということを伝えていけたら面白いですよね。

その分、辛いこともめいっぱい教えていきますよ。腕ひとつで商売していくことは大変なことなので。

こんな僕でも、たまに弱音を吐く時もあるんです。サラリーマンっていいなって()

そういう風に思ってしまう時は、妻にも『泣きつこうとしているの?』って言われちゃいますけど、どちらかというと、やっていて良かったと思う瞬間の方が今のところは多いです。」

ボランティア先の子供たちへの優しさは、家族の前でも変わらない。

仕事を終えて帰宅すれば、3人の子供を育てる父親の顔となる。

 

「人が喜ぶことをしてあげたい。それは家族にも同じです。

子供たちが“あれ食べたい”って言ったら作っちゃおうみたいな。基本的に僕の方が妻よりも帰宅が早いので、僕が夕飯を作る担当ですよ。

夏休みも、ここへ行きたいと言われたら、親として連れて行ってあげたいじゃないですか。

去年は息子が福島に行きたいって言ったので、車で5時間かけて会津若松まで連れて行きました。

それがきっかけで、息子は歴史にすごい詳しくなりましたよ。僕に似て、好きなことはとことん追求するタイプみたいです。」

 

Shoeshine Chum’s Bar(シューシャイン チャムズ バー)

渡辺氏の元には、「同じ活動がやってみたいから、やり方を教えてくれないか」と同業他社からの問い合わせが届いたことがある。

今後ボランティア活動を始めたい人々へ、ぜひともアドバイスをいただきたい。

 

「誰かと一緒にやろうと思っていたらできないです。1人でもやってやるという気持ちがないとできないかな。

一緒にやろうと言っても、周りはあんまり理解してくれないんですよ。

僕は自分が動いたからこその実績があったから、その活動を“いいね”って言ってくれる人がいる。

運良く僕の場合は、活動を始めてすぐにテレビ局が取材に来てくれたので一気に広げられました。こっちからお願いしたわけではなく、たまたま取材依頼が来たのはタイミングが良かったです。」

 

靴を通して子供たちに伝えたいこと

 

渡辺氏の活動は寄付支援だけに留まらない。

月に2回、横須賀市内の公立中学校へ出向き教壇に立ち、靴磨きを通し、生徒たちへ職業体験を実施している。

 

「靴って、究極のSDGs(持続可能な開発目標)じゃないですか。

何が究極かって、食肉用として殺された動物の肉と皮と骨を分別し、その皮を鞣して革製品ができている。それって、原始時代からずっと続いていることです。

それを通して、中学生には自分の身の回りには、自分の身体を作ってくれるために動物の命をもらっているということを知ってほしいと思っています。

ランドセル、ベルト、鞄など、すべて動物の命からもらっているものだということを一生懸命教えています。

自分たちのために削られている命があるということを知ることによって、物を大切に使い、修理してでも長く使おうという気持ちを持つ子供たちが増えてくれると嬉しいです。」

 

取材を終え、店舗のシャッターを下ろすと、「次は夕飯の献立を考える頭に切り替えます()。」と父親の顔を見せた。

オンでもオフでも渡辺氏の慈愛の心は変わらない。

靴磨きを通して生まれた真っ直ぐなボランタリズムが、子供たちの未来を明るくしていく。

 

 

社会活動についてのお問い合わせはこちらまで

寄付のお問い合わせは、Shoeshine Chum's Barまで


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Le Beau
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