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【社会活動】小学6年生が学ぶ“仕事人”-靴磨屋T.A.N.S.【サフィールフレンズ】

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公開日:2023/04/05    /  最終更新日:2023/11/29

【社会活動】小学6年生が学ぶ“仕事人”-靴磨屋T.A.N.S.【サフィールフレンズ】

仕事人に学ぶ会 靴磨き職人

“仕事人”の先生として

愛知県江南市には、地元愛に溢れる靴磨き職人がいる。

江南生まれ、江南育ち。江南市民のみならず、近郊に住む人々の靴を磨き続けている「靴磨屋T.A.N.S.」の稲田祐一氏だ。

 

稲田氏といえば、インターンシップの地元の高校生を自慢の店舗へ招待し、靴磨きの大切さや、仕事の楽しみ方を真摯に伝える姿をこのShoesLifeでも紹介したが、今回はさらに若い年齢の子供たちの“先生”として、ある場所へ招かれた。

3月某朝、稲田氏の元へ出向くと、大型バンへ荷物を積み込んでいたのは稲田氏の一番弟子「靴磨屋T.A.N.S. TOYOTA-BRANCH.」のオーナー・本田大士氏である。

稲田氏がオーナーを務める「靴磨屋T.A.N.S. MAIN SHOP」のある江南市から、高速道路を利用すれば1時間弱で到着する豊田市に、コンパクトな移動式の店を構えている。

元プロのお笑い芸人から、稲田氏の背中を追って靴磨き職人へ転身したというユニークな肩書を持つ本田氏も2人目の先生として同行するのだ。

その堂々とした佇まいから貫禄が溢れる稲田氏と、気さくで親しみやすいキャラクターの本田氏。

異なるオーラを放つ2人が訪れたのは、稲田氏と縁の深い小学校だ。

この日彼らは、卒業を間近に控えた小学校6年生の“社会人の先生”として、20数年ぶりに小学校の門をくぐった。

 

キャリア教育の一環として、社会人として自立していくために必要な能力を育むことを目的とした“仕事人に学ぶ会”

40名の子供たちが靴磨き職人の仕事に興味を抱き、ワクワクした気持ちで40分間の授業に参加した。教室の後ろには、複数名の保護者が見守る。

 

“大人って楽しいんだよ!”が伝わるといいな

 

 

靴磨屋T.A.N.S.TOYOTA-BRANCH. 本田大士氏(左)と、MAIN SHOP 稲田祐一氏

靴磨屋T.A.N.S.TOYOTA-BRANCH. 本田大士氏(左)と、MAIN SHOP 稲田祐一氏

「大人って楽しいんだよ!、靴磨き屋はこんなお仕事なんだよ!ということを伝えられたら」と2人が教室のど真ん中に設置したのは、靴磨屋T.A.N.S. MAIN SHOPから運ばれた靴磨き専用の椅子。

現代ではなかなか使われることが少なくなった貴重な椅子に触れてもらい、実際に靴を磨かれているお客様の視線を体感してもらうのが狙いだという。

 

 

靴磨き専用の椅子

靴磨き専用の椅子

教壇に並んだ2人は自己紹介をすると、さっそく靴磨きのセオリーを子供たちでも理解できるよう丁寧に話し始めた。

 

“靴はその人の人格を表す”ということわざがあります。ボロボロの靴は履いている人の印象を悪くし、ピカピカの靴は履いている人の印象を良くすると言われています。

僕たちは、お客さんが大切に履いている靴をピカピカに磨いたり、直したりして、長く履いてもらうためのお手伝いをするお仕事です。」

 

稲田氏が綴った“伝えたいこと”

稲田氏が綴った“伝えたいこと”

高級靴クリーム〈サフィール〉で初めての靴磨き

 

 

ブラシを手に持ち、靴磨きを体験する小学生

数人の子供たちが自宅から持参した革靴を机に並べた。ビジネスシューズからパンプスまで種類も色も様々。家族から預かった大切な靴だ。

 

「じゃあ、さっそく磨いていきましょう!」

 

靴クリームの量は「お米2、3粒くらい」

靴クリームの量は「お米2、3粒くらい」

本田氏が先生となり、サフィールを使った初歩的な靴磨きを教える。

ブラシの持ち方、クリームの塗布量などをひとつひとつ丁寧に伝えると、見様見真似で実践してみる子供たち。笑い声とブラッシングの音が教室に響き渡る。

 

毛の硬さが違うブラシに興味津々

毛の硬さが違うブラシに興味津々

子供たちが興味を示したのは、ブラシの種類の多さだ。

「どうしてこんなにたくさんあるんですか?」「ひとつ何円ですか?」という無邪気な質問にも、本田氏は紳士に応じる。

「今日は使わないけど」と取り出したのは、山羊毛と馬毛が混合された高級ブラシ。

他に類をみない毛量と柔らかさに、触れた子供たちからは「すげぇ!」と驚きの声が飛び交った。

 

触り心地抜群のブラシに驚く子供たち

触り心地抜群のブラシに驚く子供たち

革に栄養を与えるクリームの工程では、みんなが無我夢中となって靴に塗り広げていく。

手や服が汚れないようにと、あえてニュートラル(無色)のクリームが用意された。

「終わったら、磨いていない片方の靴と見比べてみよう」と声をかけると、上手く光沢が出た子もいれば、「汚くなった!(クリームがなじませられなかった様子)」と真逆の反応もあったが、その場にいた全員が生き生きとして、実に楽しそうな雰囲気だった。

 

靴磨屋T.A.N.S.

子供たちの姿を見守っていた保護者の方々にとっても特別な時間となった。

「主人が革靴好きなのでクリームは家にたくさんあるのに、磨いているところを一度も見たことがない()。だから、靴磨きを子供は初めて見たはずです。

靴磨き屋が江南市にあるのは知らなかったけど、お2人ともすごくオシャレでビックリ!

このクリームも良い香りがしますね。」

 

「お店は予約制ですか?行ってみたい」と、子供たち以上に興味津々の様子だった。

 

 

靴磨き専用の椅子に腰を掛ける児童たち

靴磨き専用の椅子に腰を掛ける児童たち

靴磨きを終えたあとは、教室の中央に置かれた靴磨き専用の椅子を体験。

「おばあちゃんになった気分!」と、なんとも不思議な感想も飛び出たが、ひとりひとりの前に跪き、優しく微笑み返す稲田氏。

 

靴磨屋T.A.N.S.稲田祐一氏

やりたいことを楽しんでいたら、それが仕事になった

体験が終わると、稲田氏が靴磨き職人を志すまでのヒストリーを語った。

 

「靴磨きの仕事を始めたのは、30歳から31歳になる頃。みんなは今12歳だから、今から18年後の年齢です。

それまでは、特に何も考えずに過ごしてきたけど、転職を考えていた時に“自分のやりたいことを楽しくやっていこう”と決めました。

好きなことをやっている時って楽しいでしょ?その気持ちで仕事ができたら最高だと思って、僕の場合は革靴や服を集めるのが楽しかったから、革靴を仕事にしたいなって思うようになったんです。」

 

靴磨屋T.A.N.S.稲田祐一氏

「革靴を大事にしようと思うと、汚れやキズが気になってきます。

だからインターネットで“靴 汚れ 落とす”と調べて、色んな汚れの落とし方を調べては、試してみることを繰り返しました。

だんだん自分の靴だけでは足りなくなって、友達の靴を借りて磨いたら『綺麗になった、ありがとう』と言われた。その時、『ありがとう』っていいなと思ったんです。」

 

靴磨屋T.A.N.S.本田大士氏

「本にもインターネットにも書いていない汚れやキズにぶち当たった時は、自分なりに考えて、研究して、日々アップデートを繰り返していくと自信が湧いてきます。

自信が湧いて、“これを仕事にしたらいいのでは”と思い始めてからは、名刺を配りまくりました。

数ヵ月したら『靴を磨いてほしいです』と電話が鳴り、それが初めて仕事になった瞬間。

靴磨きを始めてから、2年が経過した頃でした。」

 

手には“革ぐつ”のメモが

手には“革ぐつ”のメモが

やりたいことを見つけにいって、それが仕事になったのではなく、やりたいことをやりたいだけやって、楽しんでいた結果、それが仕事になっていました。

ここまで来るのに苦しいこともあったけど、好きなことをやっているから折れることはなかったです。なぜなら、興味があり、好きなことをやっているから。

お客さんに『ありがとう』って言われるとめちゃめちゃ嬉しいから、今でもお客さんに良い物を届けるために、自分をアップデートし続けています。」

 

半数ほど女子児童も参加した

半数ほど女子児童も参加した

真剣な眼差しで稲田氏の話に聞き入る子供たち。時折メモを取り、頷く姿もあった。

 

授業の最後には、実直な感想が寄せられた。

「ドラマを見ていると、“仕事が嫌だ”というシーンが多くて、大人は大変だなと思っていたけど、稲田先生のように自分のやりたいことを楽しめるのは、すごく良いなと思いました。

自分にも、やりたいことや好きなことがあるので、目標に向かって続けていきたいです。」

 

児童の言葉に、一言「いいじゃん、頑張ってください」と声をかけた稲田氏。

職人らしくぶっきらぼうな側面もあるが、心の奥底の温かさは、ちゃんと子供たちに伝わっているはずだ。

 

 

教壇に立つ、靴磨屋T.A.N.S.の二人

授業が終わり、一同が集合した体育館で、2人は6年生全員へ最後のメッセージを伝えた。

 

靴磨屋T.A.N.S.から6年生へのメッセージ

稲田氏

「世の中には色んな大人がいます。自分と違う人もいるから、とやかく言われることもあるけど、自分がやりたいことをやれるだけやってみてほしいです。

大人になると色々なことがあるけど、やりたいことをどんどん追求して、友達や自分以外の人が知らないことを、たくさん勉強して経験してほしいです。」

 

スクリーンには授業の様子が映し出された

スクリーンには授業の様子が映し出された

本田氏

「皆さんくらいの年齢の時に、サッカーをやっていたからスパイクを磨いていました。その時は想像していなかったけど、今は靴を磨く仕事をしています。

何か小さなきっかけを今からでも掴んで、夢に向かって頑張っていってほしいです。」

 

児童からのお礼の品

子供たちからは、御礼の花束と手作りのマスクケース、「お仕事について、くわしく教えてくださり、ありがとうございました。」というメッセージが添えられたカードが手渡しされ、拍手で見送られながら学校を後にした。

 

大好きな地元から、未来の種を配り続ける

 

学校を出た後、ようやくリラックスした表情を浮かべた稲田氏が自身の地域貢献に対する想いを語ってくれた。

「この活動は、継続的に市内から続けていくつもりです。

未来の種を配り続けて、輪が広がり、子供たちにとって良い方向へ繋がることを願っています。」

 

大好きな地元から、未来の種を配り続ける

本田氏からは、「僕、“スパイク磨きおじさん”になりたいんです」と、面白い野望を聞くことができた。

 

「あの子たちと同じ年齢の頃、スパイクのプーマの白いロゴを靴墨で黒く塗りつぶすのが流行っていて、黒い靴クリームを使ったり、クリーナーで落としたりしていたら、何らかの化学反応が起きて白いロゴが水色になりました。それが、僕の靴磨きのルーツです()

今は、フットサルを月1のペースでやっているけど、スパイクをサフィールで磨いたらビックリするくらい綺麗になるんです。

スパイクは泥だらけになるからほぼ毎日洗うので、すぐに壊れちゃうんですよね。

なので、革に優しいサフィールで、子供たちのスパイクを綺麗にする活動がいつかしたいと思っています。

あと、僕の店舗のすぐ隣にホテルトヨタキャッスルがあって、Jリーグやバスケの遠征場所として使われているんですが、ヴィッセル神戸のアンドレス・イニエスタ選手が宿泊することもあるんですよ。

いつか、イニエスタのスパイクを磨くことも夢見ています()。」

 

この記事が公開される頃には、6年間過ごした小学校を卒業している子供たち。

成長し、社会人として一歩踏み出すその瞬間、2人の言葉の意味をもう一度思い返し、楽しい人生を送るヒントを掴んでほしい。

 

 

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