サフィールの靴クリーム、サフィール ビーズワックスファインクリームやサフィールノワール クレム1925の特徴や魅力について、本サイトでもたびたび取り上げてきました。
“乳化性と油性の違い”や“原料・成分”、“製法”など靴クリームによっても異なる点は多く、その違いが靴クリームの個性、持ち味となっています。
しかしこういった違いは、クリームそのものを見てもなかなかわかるものではありません。
ではこの靴クリームの違いをどうにか視覚的に観察する方法はないのでしょうか?
ということで、今回は靴クリームの特徴を目で見ることができるかんたんな実験をしてみたいと思います。
この実験は紙を革に見立てて、靴クリームを塗った時に紙や塗ったクリーム自体にどのような変化や違いが生じるか、を観察していきます。
それでは早速試していきましょう。
まずはサフィールノワール クレム1925を紙に塗ります。
それぞれのクリームは塗布面が均等な厚さになるよう塗ります。
次にビーズワックスファインクリームを塗ります。
公正な比較となるよう、だいたい同じ量を同じくらいの範囲に塗り拡げます。
靴クリームではありませんが、参考までにサフィール デリケートクリームも塗っておきます。
ワックスや有機溶剤を含まないクリームの代表として、比較に加えます。
他にも靴クリームがあれば、塗ってみましょう。
次はクリームを塗った後のそれぞれの塗布面を見比べてみます。
違いや気になる点を挙げてみてください。
デリケートクリームを塗った場所は、濡れたように紙がふやけて波をうったようにシワがよります
ところがクレム1925を塗った場所には一切シワがよりません。
これはクレム1925が水分を含まない油性のクリームであることを表しています。
紙はセルロースという植物繊維で構成されていますが、水と結びつきやすい構造を持っています。
水分を含むことで、セルロース同士の結びつきがゆるみほどけてしまうため、ふやけたようなシワがよってしまいます。
当然ながら水分量が多ければ多いほど、そのゆるみは顕著に表れますので、デリケートクリームのような水分量の多い保湿メインのクリームは波がはっきりと表れます。
油分はセルロース同士の結びつきに割って入ることができず周囲にまとわりつくだけなので、波状のシワが出ることはありません。
ちなみに乳化性であるファインクリームもさほど紙が波をうっていませんが、これは乳化性であっても油分の配合比率が高いからです。
他の靴クリームがあれば塗ってみるとわかりますが、クリームによってはデリケートクリーム並みに波をうつものもあります(シャレじゃなく)
皮革のコンディションを万全に保つために必要な油分の量を、なんとなくでも図るのに有効な実験です。
次は少し時間を置いて、もう一度塗布した箇所を観察してみます。
クレム1925を塗った箇所を見ると、ある変化に気づくと思います。
周囲にはっきりと“何か”が染み出しているのがわかりますね。
これは、クレム1925の主成分である「油分やワックス(と有機溶剤)」です。
紙を裏返してみるとさらにわかりますが、裏側へもかなりしっかりと浸透しています。
これはクレム1925の成分が皮革にしっかりとなじみ深層へ浸透していることを表しています。
浸透性の高い油分<シアバター>の効果もあり、しっかりと栄養効果が皮革へ行き渡っていくのが想像いただけるかと思います。
同じ実験でも人によってはこの浸透している画像のように成分が黄色味がかっていたり、透明だったりしますがこれは<ビーズワックス>が影響しています。
配合されているのが<イエロービーズワックス>だと黃味がかり、<ホワイトビーズワックス>だと透明です。
クレム1925のカラーや製造ロットにもよりますが、基本的には淡色系のカラーのクレム1925には<ホワイトビーズワックス>が用いられるので靴に塗布した際にシミになったり色がつくようなことはありません。
※<イエロービーズワックス>であっても、成分の色味が皮革の色味に影響するのは極わずかで色がついたりシミになるようなことはありません。
皮革が潤い、柔軟性が維持されるのは皮革を構成する網状層と呼ばれる繊維層に油分が蓄えられているからですが、靴クリームに配合される油分をこの網状層にまで到達させるにはやはり「浸透力」が重要となります。
水分も浸透性が高く網状層に蓄えられる成分ではありますが、乾きが早く皮革から抜けやすい成分でもあります。皮革をより良いコンディションで長持ちさせるには油分を浸透させることが必要不可欠なのです。
次にクリームを塗布した部分に、水をスポイトで数滴垂らしてみましょう。
いかがでしょうか?垂らした水滴はどうなっていますか?
ご覧の通り、クリームに水が弾かれて玉のようになっていたり、べたーっと広がってしまったり、クリームごとに特徴が表れています。
この実験は靴クリームを塗った靴が雨などで濡れた時にどうなるか、という一例です。
皮革に靴クリームが塗布されることで、ワックスと油分が水気の浸透を防いでくれる「防水効果」を発揮するわけですが、クリームごとにその効果にどれだけの差が出るのかを視覚化しています。
クレム1925の塗布部分にはまんまるところっとした水玉ができています。
これはワックス・油分の配合比率の高い油性のクレム1925の塗布面には、強い撥水効果が発揮されます。
デリケートクリーム塗布部分にも水を垂らしてみますが、こちらは垂らした水が塗布部分になじんでしまい玉のようにはなりません。
これはデリケートクリームのような水分を多く含み、ワックスが配合されていないクリームは、落とした水がクリーム中の水分と引き合ってしまい弾ききれないがためにペターっとなじんでしまうわけです。
乳化性の靴クリームの場合、ワックスを配合していますから当然水を弾く効果はデリケートクリームより強く表れますが、油性のクリームと比べると油分やワックスの配合比率が少ないため水気を弾く効果の「持続性」で差が出ます。
ビーズワックスファインクリームのように乳化性であってもさほど紙が波をうたずシワのよらないようなクリームであれば、油性のクレム1925ほどではないにしろ、防水・耐水力において優れた効果を発揮します。
もう一つ、靴クリームの防水効果を確認するポイントがあります。
水を垂らした紙の裏を見てみてください。わかりますか?
デリケートクリーム塗布部分に垂らした水は、裏にまで抜けてしまっているのがわかると思います。
ではクレム1925を塗った場所はどうでしょうか?
2.で裏を見たときと見た目変わらず、さきほどのデリケートクリームのように裏側にまで水が抜けてしまっているようなこともありません。
ワックス成分や油分が機能し、水をしっかりと弾いてくれています。
クレム1925でお手入れされた靴はクリームだけでも十分防水効果を与えられるので、定期的にお手入れを継続している靴には防水スプレーはとくに必要でない、というのがこれでおわかりいただけたかと思います。
今回ご覧いただいた実験は、紙にただクリームを塗っただけでの効果の比較でしたが、実際の靴のお手入れの場合は靴クリームを塗布する時は、アプライブラシで細かい凹凸にしっかりと塗り込み、豚毛ブラシのブラッシングで念入りになじませます。これはこの工程を経ることで靴クリームの持つ効果効能がよりはっきりと発揮できるからです。
そしてそのお手入れを定期的に継続していくことで、その効果が維持させやすくなります。
世の中にたくさん存在する靴クリームですが、当然ながらどれもまったく同じということはありません。
今回ご紹介した油分やワックスの配合量・比率による効果の違いのほか、色づきや伸びのよさ(=塗りやすさ)もそれぞれです。
もし靴に与える効果に疑問を感じたら、まずは身近なものを使って靴クリームごとにどんな違いがあるのかを実際に見比べてみると、きっと新たな発見があるはずです。
おまけ
ご参考までに、手元にあった日本国内で一般的に市販されている靴クリームの実験の様子も掲載しておきます。
とある靴クリームの実験例<その1>
とある靴クリームの実験例<その2>
本記事で紹介した商品はこちらで購入できます。