ハイセンスなショップが集まり、近年人気が高まっている福岡の薬院エリア。その一角にある、おしゃれなテナントビルに店を構える「Boston & Re Olds」。サフィールのシューケアトレーナー資格を有する二人のシューシャイナーが在籍し、年間5,000足もの靴を磨き上げている。
「Boston & Re Olds」のシューシャイナー西上悦弘氏と吉冨純弘氏は大学時代の同級生。一緒に大学を卒業した二人がシューシャイナーになった経緯とは?
西上氏が靴に興味をもちはじめたのは幼少期。物心がついた頃から自分で靴を選んで履いていたのだ。というのも、母親が無類の靴好きで、幼い頃に欲しい靴を買ってもらえなかった経験から、自分の子どもにはと、西上氏に好きな靴を買い与えていたのだ。
大学生になり、アルバイトは迷わず靴屋を選んだ。しかし、そこで意外な光景を目にする。「お客様はみんなワクワクしながら靴を買いに来るものだと思っていたのですが、実際は違いました。『なんでもいいから』『安ければいいよ』という人が、多かったんです。もっと靴選びの楽しさ、靴の魅力を知ってもらうために何かできないかと考え、思いついたのが靴磨きでした。それから、靴磨きを独学で学びはじめました」。
あるとき、バイト先のお客様だった保険の営業マンと知り合いになり、オフィスで靴磨きをさせてもらうことになった。オフィスに訪問すると、そこには格好よくスーツを着こなした人たち。靴磨きを施すと、とても喜んでくれた。好きなことで感謝され、報酬を得られることが嬉しくて、靴磨きを仕事にしようと決めた。
そして、福岡でホテルの宿泊者向けにシューシャインサービスをはじめるという話を聞き、熊本に住んでいた西上氏は福岡に移り、サービスの立ち上げに参画。2014年にゼロからスタートしたホテル出張サービスは、今ではサービス対象ホテルが40軒以上に広がった。
一方、服が好きだった吉冨氏は学生時代から雑誌のファッションスナップの常連。大学時代はセレクトショップでアルバイトをし、卒業後はそのまま社員になり、熊本でショップ店員として働いていた。
キャリアを積み、カジュアル部門からドレス部門に担当が変わると、西上氏と同じように、足元のおしゃれをもっと伝えたいと思うようになった。
「ドレス担当になると、お客様は入学式、結婚式など、イベントごとに向けてスーツを購入されることが多いのですが、靴まで気にかける方は少ないです。足元を大事にする事を伝えていくことも自分の仕事のうちだと思いました。西上が靴磨きをしているのは知っていたので、磨き方を教えてもらって、自分の靴を磨いたり、仲のよいお客様から靴を預かって、磨かせてもらったりするようになりました」。
そして、2018年に「Boston & Re Olds」が今の場所に店舗を新しくオープンするタイミングで、吉冨氏は前職を退職し、メンバーに加わった。
ホテルでの出張シューシャインは、街がコンパクトにまとまっていて、ホテルが密集している福岡ならではのサービスだ。お客様がホテルのフロントに預けた靴を、シューシャイナーが夜のうちにホテルに出向いて磨く。お客様は翌朝、お手入れされた靴を受け取ることができるのだ。
通常はホテルのフロントを通して靴を預かるため、シューシャイナーがお客様と直接対面することはない。だからこそ、「どんな思いで依頼してくださったのだろうか、ケアを施した靴を見てどう感じてくださるだろうか」と、お客様のことをあれこれ想像しながら靴を磨く。
「あるとき、夜中に知らない番号から電話がかかってきました。何かと思ったら、ホテル出張サービスの常連だという方からでした。今日はサービス対象外のホテルに泊まっているけれど、靴を磨いてもらうことはできるかという問い合わせです。それで、宿泊先ホテルに許可をいただき、直接靴を預かりにいきました。ホテルで初めて対面すると、開口一番『いつもきれいに磨いてくれてありがとう』と、おっしゃっていただきました。北海道の方で、福岡に出張に来る度に靴を磨き、翌日の仕事に向かうのがルーティーンになっているとのことでした。お客様の大切な日のために靴を磨かせてもらっていたこと、喜んでもらえていたことを実感できて、嬉しかったですね」と、西上氏。
吉冨氏にも忘れられないお客様がいる。「以前あるホテルで、靴磨きの出張イベントをしたことがありました。あまりサービスを受けてくださる方がいなくて、この試みは失敗だったかなと、正直テンションは下がっていました。ですが、それから2年ほど経った頃、店舗に来てくださったお客様が、実は以前にホテルで靴を磨いてもらったことがあると。また磨いてもらいたいと思ってやっと来店できましたと、おっしゃってくださったんです。覚えていてもらえたことが嬉しく、靴磨きをやっていてよかったと感じました」。
足元のおしゃれをもっと多くの人に楽しんでもらいたいという思いでシューシャイナーになった二人。その思いは店のメニューにも反映されている。
「ホテル出張サービスの靴磨きは1,200円(税込)〜と、敷居をなるべく下げた価格にしています。1万円以上する靴をすぐに買うことはできなくても、1,200円の靴磨きなら、試しにやってみようと思えますよね」と、吉冨氏。
「一度でも靴を磨いたことがある人は、普段から靴が汚れていないか気にするようになります。試してもらいやすい価格にすることで、多くの人に靴磨きサービスを利用してもらい、足元を意識する人を増やしたいと思っています」と、西上氏も話す。
ホテル出張サービスを始めて7年、現在の場所に店舗を構えて3年。店の認知度は徐々に上がり、リピート客も増えてきた。靴を履く楽しみを広めたいという二人の思いは、着実に実を結んでいるようだ。
「きちんと手入れされた靴を履くと、自分自身のテンションが上がりますし、周りからの見方も変わってきます。逆に、せっかく頑張っている人でも、足元だけでマイナス評価されてしまうこともあると思うんです。どんな人間なのかは足元に表れます。だからこそ、頑張っている自分に見合う、ケアの行き届いた足元を意識してもらいたいですね」。
西上氏と吉冨氏は、共にサフィールの検定最上級であるシューケアトレーナー資格を取得している。九州で唯一、シューケアトレーナー資格を保有するシューシャイナーがいる店として、お客様からの信用・信頼は厚い。もちろん、シューケアの工程で使用するクリームも、すべてサフィールの製品だ。
「サフィールの『クレム1925』を使うと、クリームが革の中にしっかり入っていくので、重厚感と深みが出ます。他のクリームでも、見た目はきれいになりますが、重心が高いというか、クリームが表面にのっている状態で、深みが出ないんです」と、西上氏のサフィール愛は強い。
吉冨氏は靴磨きを始めた当初、違うメーカーのものを使用していた。「当時勤めていたセレクトショップで扱っていたクリームが別のメーカーのものだったので、それを使っていたんですが、一生懸命磨いても、西上が磨いたものと仕上がりが全然違うんです。同じことをやっているはずなのにどうしてだろう? と。西上にどんなクリームを使っているか聞いて、同じものを買いに走りました(笑)。サフィールを使うようになって、ようやく思い描く艶や光の奥行きを出せるようになりました」。
シューシャイナーの仕事に情熱を注ぐ二人。プライベートでは靴磨きと同じくらいハマっているものがあるという。
吉冨氏の趣味はビンテージスニーカーの収集。「当時のオリジナルにしかない形やデザイン、細部まで作り込んである、古いスニーカーが好きで数十足コレクションしています。特に70s~80sのモデル名も分からないようなものに惹かれるんです。自分のスニーカーだけでは飽き足らず、妻や子どものものまで勝手に買っていますね。最近のキッズシューズは、脱着のしやすさを考えられていますが、昔のものは紐靴だったりするので、妻には全否定されています(笑)」。
西上氏が夢中になっているのは多肉植物の育成。その中でも、葉先が枯れ込む性質があるアロエにハマっている。「環境に合わせて力強く生きる姿が格好いいんです。寒いところに置いておくと、凍ってしまわないように、葉を枯らして水分量を調整します。少しずつ葉先が枯れ込んでいき、葉は丸くなります。また枯れ込んだ葉のふちが赤くなるのも見どころです。暖かくなったらまた緑の葉を伸ばして成長する。多年草なので季節が巡っていく中で変化し、味が出てきます。履き込んだ靴に味が出てくるのと似ていますね(笑)。靴が好きな人はきっとハマると思います」。
最近では、趣味が高じて店舗でも植物や鉢の販売を始めた。コロナ禍で家時間を充実させるのにぴったりと、お客様からも好評だ。
植物の販売以外にも、オリジナル商品の開発や配送サービスの充実、靴ブランドとのコラボシューズの発売など、今後も新しい試みが目白押し。進化し続ける「Boston & Re Olds」から目が離せない。
次回更新の記事では、「Boston & Re Olds」のメニューやサービス内容について詳しく話を聞く。
Boston & Re Olds
TEL:092-753-8823
福岡県福岡市中央区薬院1-16-14 BEIDEN薬院
13:00〜20:00
火曜定休
http://boston-shoeshine.jp
https://www.instagram.com/boston_reolds/