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革靴のつま先をピカピカに仕上げる鏡面磨きの奥深い世界

最初は眠気覚ましに飲んでいた苦いだけのコーヒーも少し知識を深めると、豆や焙煎の仕方によって苦味だけではない酸味やフルーティーと表現される味の世界があることを知ります。最初はモテたいだけで始めたギターもFのコードが押さえられず挫折したけど、6つの弦をすべて押さえなくても和音は鳴ると知るだけで、もっと演奏を楽しめるようになります。
というように物事には、最初の一段を乗り越えないと見えてこない深い世界があったりします。

 

革靴も同じようにケアだけではない、もう少し奥の深い楽しみ方がございます。それが今回ご紹介したい鏡面磨き。つま先やかかとに専用のワックスを塗って、革靴をツヤツヤに仕上げる方法です。奥が深いと申し上げたのは、革の質感や色によって、そして靴のデザインによってもいろんな磨き方があるからです。
そこがとにかくおもしろい!正解があるわけではなく、靴の持ち主の好みも存分に反映させることができるので、磨き方に個性が出ます。

 

というわけで、今回は鏡面磨きの方法と、靴や革によってどんな磨き方があるかをご紹介してまいります。少し深い世界かもしれませんが、革靴にもこんな楽しみ方があるのか、と感じていただけると嬉しいです。

鏡面磨きのメリット

革靴のクリームを使って革に栄養補給をしていただければ、革靴は十分美しさを保って長持ちしてくれます。なので、僕は鏡面磨きは必ずしもなくてはならないものだとは思っていません。ですが、実はワックスを乗せるメリットはツヤを出すだけではないのです。

 

ワックスには保革(ほかく)効果といって、革の表面を汚れキズから守ってくれる効果があったり、革の表面にワックスの皮膜を作ることで革を乾燥から守ったり防水効果も期待できるのが鏡面磨きのメリットでもあります。
また、ワックスに含まれる成分によっては、ある程度革に浸透して革にとっての栄養となる成分もあります。靴用のクリームほどの栄養補給効果はないにしても、ワックスを塗ることによる効果はツヤだけじゃないということをご理解いただけたらと思います。

 

ワックスの使い方

では実際に鏡面磨きの方法、ワックスの使い方についてご説明をしてまいります。鏡面磨きは、こちらの記事でもご紹介している革靴のクリームを塗って栄養補給をしてもらった後に行う工程です。

 

今回使うワックスはこちらです。サフィールノワールのビーズワックスポリッシュ。
こちらをつま先やかかとに順番に塗っていきます。

つま先、かかと、反対の足のつま先、かかと…というように順番に少量ずつ塗り重ねることによって、ワックスを乾かしながら層を作って革表面のデコボコを埋めることでツヤを出す、という理屈です。
ワックスにはロウ分の他に油分や、それを混ぜるための有機溶剤が含まれています。新品の状態だと有機溶剤の割合が多く、ワックスが柔らかい状態です。なので、つま先、かかと…と順番に塗ることで溶剤を揮発させ、ワックスの層を作るというわけです。

 

何度か塗り重ねてワックスの下地を作ったら、次はコットン素材の布に少量の水をつけて表面を磨き上げます。少量ワックスを塗り足すことで、下地のワックスの表面を整える効果もあります。

何度か繰り返して、仕上がった鏡面がこちら。

 

こちらは明るめの茶色の靴にちょっと濃いめのワックスを使った仕上げです。このように縁(ふち)を濃くする仕上げをアンティーク仕上げなんて言ったりもします。靴の下の方がほんの少し濃くなっているのがわかると思います。

 

こちらはプロの靴磨き職人さんに磨いていただいたものです。つま先だけでなく全体的にツヤが出ているのがわかりますね。とても綺麗です。

 

こちらはつま先とかかとだけを集中的に磨いた靴です。靴のつま先やかかとの内側には芯材と呼ばれる硬い素材が入っているのですが、それ以外の部分にワックスを乗せすぎてしまうと、革が屈曲してヒビが入ってしまうことがあるので注意が必要です。

理屈では理解できても実際やってみると、これがなかなか難しいのです。最初の一段を乗り越えないと楽しさが見出せないと書きましたけど、まさにその通りなので是非一度でなく二度三度と挑戦してみてください。
ということで、鏡面磨きのコツをいくつかご紹介したいと思います。

 

ワックスは乾かすと使いやすい

新品のワックスは有機溶剤が多く含まれているため、非常に柔らかいです。特にサフィールブランドのビーズワックスポリッシュは最初は柔らかいので、蓋を少し開けた状態で5日〜1週間程度放置してあげると溶剤が揮発して硬くなり、革に塗った時に定着しやすくなります。(左が乾かしたワックス、右が乾かしてないワックス)

 

逆に言うと、使い方によっては柔らかい状態でも硬い状態でもお好みの硬さで使えるというところがこのワックスの魅力でもあります。
僕は黒のワックスを使う場合は、柔らかい状態のものと硬い状態のものを併用します。

 

もっと早く磨くなら

早く磨くことを目的にはじめから硬く作られているワックスもあります。
こちらのミラーグロスです。革に定着するのが早く光るのが早いため、靴磨きの選手権大会でも使用を禁じられているほどのワックスです。

 

柔らかいワックスではなかなか綺麗な鏡面に仕上がらないという時や、どうしても素早く仕上げなくてはならないような時には、こちらを使うとすごく早く仕上がります。

 

最後に

というように鏡面磨きの効果は、ツヤだけでなく保革効果や防水効果にも期待ができるわけですが、僕は趣味としてご自身の好きな磨き方を追求する楽しさを感じていただきたいと思います。

 

コーヒーでも音楽でもそれ以外でもそうですが、こういった趣味のいいところって、ああでもないこうでもないと言いながらひとつの事に没頭できることなんじゃないかと思っています。そして、自分で実践したり考えたりすること。その体験によって思考が生まれたり、感性を養ったり、その趣味を通じて好きなことを共有できる仲間ができたり、という一見無駄なようで実はすごく人生を豊かなことだと思うのです。

革靴をお手入れして長く大切に履くというのも価値観を育むことにつながると信じていますが、それ以上に革靴というものを楽しめるのが鏡面磨きだと思っています。
靴のお手入れをされたことのある方には是非挑戦していただきたい奥深くおもしろい世界です。

 

最後までお付き合いいただきありがとうございました。


Writer profile

楠美 皓平 Kohei Kusumi

革靴ジャーナリスト・ブロガー

祖父に教えてもらった靴磨きがきっかけで、靴のお手入れ方法や革靴に興味を持ち、『革靴の魅力や靴磨きの楽しさをもっと多くの人に知ってほしい』という想いでブログやYouTubeで情報発信を行う。また、ファッションとしての革靴だけでなく、足を支える道具としての革靴という側面から、靴選びの大切さについても発信をすべく知見を深めている。
ブランドや職人の取材のライティングをする一方で、靴好きの方のコミュニティの活性化の一環としてイベント運営も手がける。
前職のwebディレクターの経験からシューメーカーのブランドサイトやオンラインショップの制作・カスタマイズ、広告運用を受け持ったり、ブランディングや商品開発のコンサルなども行う。

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