世界的に有名な革靴を作るメーカーやブランドがあるように、その素材である革を加工・製造している“タンナー”にも非常に有名なメーカーが存在します。
高級革靴メーカーのほとんどが、名だたるタンナーが作る革を用いている場合が多くあるので、ご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、タンナーについて書かれた海外の記事をご紹介します。
タンナーそれぞれが製造する革の特徴や用いている有名革靴メーカーなど、いろんな情報が詳しく書かれていますので、ぜひご一読ください。
本記事は、Shoegazing.comで公開されているGuide – Shoe leather tanneriesを日本語に意訳して紹介しています。
靴好きの方なら、革靴の材料となるレザーを製造するいろいろなタンナーの名前を目にしたことがあるのではないでしょうか。
今回は上質な革靴の材料の主要製造業者を多数調査し、製造品目、製造場所、製造方法などをかいつまんでご紹介します。
タンリーダノネイ(フランス語で“アノネイの製革所”)は革靴用の高品質なカーフレザーの製造で高い知名度を誇るタンナーです。
同社の所在地で社名の由来でもあるフランスの街では、13世紀から製革が行われています。
年間約200万平方フィートのレザーを生産している、約8000平方メートルの工場に約80人の従業員を抱える大きなタンナーです。
数年前にアノネイを買収したエルメスは、最高のハイドをふんだんに自社傘下のジョンロブパリなどの製品に使えるようになりました。
ここでは主にクロムなめしを行っており、バラエティに富んだボックスカーフ(アニリン染めとは言っても名ばかりで、色がハイドにより深く浸透するドラムで染色している時点でもはやアニリン染めではありませんが)、人気シリーズの(表面だけ染色された)クラストレザーに加え、型押しのスムースレザーやエンボス加工のグレインレザーも製造しています。
バダラッシカルロは植物タンニンなめしに特化したタンナーで、そのレザーはワークブーツのメーカーに特に人気があります。
同社の所在地であるトスカーナのアルノ川流域には、イタリアのタンナーが集中しています。
これは、豊富な水源がタンナーには(植物タンニンなめしを行うタンナーには特に)不可欠なためで、この地域のタンナーはむかしから植物タンニンなめしを行っていることは覚えておきたいところです。
バダラッシはウシの肩の部分のみを使い、自然なグレインレザーの特徴を持つ“ミネルバボックス”をはじめ、さまざまなプルアップレザーを提供しています。
主に国内の靴業界に大量に供給しているイタリアのタンナーです。
まもなく創業100年を迎える老舗ですが、アレッサンドロ・イリプランディを新オーナーに迎え、この数十年で業績を伸ばしています。
今回紹介するすべてのタンナーと同様、ボナウドは非常に厳格な環境ガイドラインを遵守しており、環境への排出が一切ないクローズドシステムを採用しています。
環境を破壊しないヨーロッパとアメリカの優良タンナーやアジア有数のタンナーのレザーは、高級な革靴を買うことのメリットのひとつです。
履き古した靴を不燃ごみとしてリサイクルする限り、環境有害物質が環境へ排出されることはありません。(なめしに使用する3価クロムは燃焼すると環境に悪影響を及ぼす6価クロムに変化します)
カーフレザーをはじめ、カンガルー、シカ、ヤギのレザーを製造しています。
スエードで有名なチャールズ・F・ステッドはイギリスのリーズ郊外にある老舗タンナーです。
最も有名な製品“レペロスエード”は、キメの細かい床スエードです。
ほかにも、“ヤヌスカーフ”という銀付きカーフスエードも製造しています。(皮を分割していない、より高価でキメの細かいスエード。内側にサンドペーパーをかけた一枚革のカーフスキンです)
スエードもサンドペーパーをかける前にクロムなめしを行い、そのあともう一度植物タンニンなめしを行うのが一般的です。
スエードのほか、エンボス加工のグレインレザーやクードゥー、エルク、シカなどのレザーも製造しています。
アノネイ社と双璧をなすフランスのカーフレザー製造業者がデュプイです。
フランスの靴メーカーのジェイエムウエストンの傘下でしたが、数年前にエルメスが買収。
エルメスは現在、フランスの靴用高級レザーの二大製造業者を所有しています。
ウエストンはデュプイのハイドを引き続き使用する契約を交わしたと言われており、現在、エルメスと共用しています。
デュプイもクロムなめしを行っており、アニリン染めのカーフを製造しています。
アノネイと比較して、デュプイのスムースレザーの原皮は若干薄めで、アノネイのものよりややデリケートかもしれないというのが一般的な見解です。
ソールレザーやフルハンドメイドの靴の材料(インソール、月型芯、ヒールリフトなど)に特化したタンナーです。
レンデンバッハやベイカーより知名度は低いですが、非常に質の高いソールを製造しています。
ここで植物タンニンなめしに使う主成分は栗の樹皮で(フランスやイタリアのタンナーではこれが標準的です)、1年ほど槽に漬け込みます。
ギャラが少々特殊なのは、脂肪分の異なる厚いソールレザーをオーダーできる点です。
製作している靴のタイプに合わせやすいので多くのシューメーカーに歓迎されています。
ハースはドイツ国境にほど近いフランスのタンナーです。
さまざまな高級ブランドが好条件で買収の申し入れを再三行いましたが、現在も創業家が所有しています。(しかしながら、現在エルメスが同社の株式を所有し何らかの影響力を持っていると言われています)
ミュージアムカーフを仕入れていたイルチアが倒産した後はとくに、エルメスとジョンロブパリはこのタンナーのレザーを多用しています。
ほかにもハースはさまざまなクロムなめしの型押しのスムースレザーやユタグレインのような人気のあるエンボス加工のグレインレザーを製造しています。
レンデンバッハと並び、今回紹介するタンナーの中でおそらく最大のブランドでしょう。
しかし、アメリカのホーウィンはソールレザーを製造していません。
その名を世界に轟かせているのは、もちろんシェルコードバンレザーです。ご存知かと思いますが、ウマの臀部の皮を特殊な方法でなめして作るのがコードバンです。
シェルと呼ばれる筋膜に大量の油脂を注入します。非常に特殊な弱い可塑性があり、波打つようなシワができます。
シェルコードバンは、表側が裏側になったフルリバースカーフスエードのようなものですが、真皮にサンドペーパーをかける代わりに、ここではシェルとタンニンで処理します。
ホーウィンが製造しているのはコードバンだけではありません。
クロムエクセルは、やや自然な感じの仕上げの高温でなめした(ワックスとオイルで処理した)プルアップレザーです。(引っ張られた部分の色が少し薄くなることからこう呼ばれています)
200年近く海底に沈んでいたメッタカタリーナ号から発見された伝説のロシアのトナカイ(ロシアンレインディア)のレザーを模して作られたハッチグレインレザーは、とても人気のある型押しグレインレザーです。
イタリア屈指の大手タンナーでした。
数年前に倒産した際は、多くの靴メーカーの間で(とくにイルチアから主にレザーを仕入れていたイタリアでは)ちょっとした騒動が起きました。
しかし、数カ月後、現在イルチアを経営しているタンナーのヴェッキアトスカーナグループに買収され、倒産前の最盛期に築いた評判を回復すべく励んでいます。
イルチアを代表するレザーであるラディカは、ジョンロブパリが考案したミュージアムカーフという名前で広く知られています。(しかし、前述のとおり、ロブは現在イルチアではなくハースのミュージアムカーフを使用しています)染浴から取り出した革にスポンジで独特な模様をつける、アニリン染めのレザーの一種です。
ほかにも、イルチアはアニリン染めレザー、クラストレザー、エンボス加工のグレインレザーやスエードなど、さまざまなクロムなめしレザーを製造しています。
J・レンデンバッハはおそらく最も有名なソールレザーの製造業者でしょう。
ラズロ・ヴァーシュの著書『紳士靴のすべて』がこのブランドに大きな影響を与えました。
この本によってJRの二文字は高品質なソールの代名詞となり、シューメーカーがこぞってそのロゴをソールに使いたがるおそらく唯一無二のタンナーでしょう。
J・レンデンバッハのソールレザーは主にオークバークを使用して長い間(約1年間)植物タンニンなめしされます。時間をかけるため耐久性が非常に高いですが、値段もやや高めです。
レザーを乾燥させすぎて加工しにくいなどの問題もありましたが、ヨーロッパのシューメーカーたちと協力して心地よいレザーの感触を取り戻しました。
創業150年を超える老舗タンナーです。
レンデンバッハと同様に非常に質の高いオークタンニンなめしのソールを製造しています。
ベイカーはガジアーノ&ガーリング、アルフレッドサージェント、チーニーのインペリアルシリーズなどに使用されています。
やわらかく油分を多く含んでいて扱いやすいため、多くのビスポークシューメーカーがレンデンバッハよりもベイカーのソールを使いたがります。
ソールレザーや製靴用レザーのほかにも、椅子張り用レザーや、現存する模造品の中で伝説のロシアンレインディアのレザー(ホーウィンの項参照)に最も近い新しいタイプのハッチ模様を型押しした植物タンニンなめしレザーを提供しています。
日本一有名なタンナーは、間違いなく新喜皮革です。
馬革専門の同社はシェルコードバンで有名で(知名度ではおそらくホーウィンの次ですが)、ほかにもウマのハイドから実に魅力的なレザーを数多く製造しています。
2019年にEUと日本の間で自由貿易協定(日本・EU経済連携協定)が発効し、ヨーロッパのシューメーカーが新喜を無関税で輸入できるようになったときの国際的な関心の高まりがそれを証明しています。
ワインハイマーという名前に聞き覚えがなくても、フロイデンベルグなら知っているという人は多いでしょう。
フロイデンベルグは魅力的な黒のボックスカーフをメインにさまざまな色合いのアニリンレザーを製造するドイツの伝説的タンナーでした。
クロム使用に関するドイツの法律が厳しくなったことなどから2000年代初頭に廃業しました。
フロイデンベルグの跡を継いだのがワインハイマーで、すべてのレシピを受け継ぎポーランドのタンナーで開業しました。
現在もフロイデンベルグが製造していた黒いハイドなどで人気を博していますが、ポーランドへの移転で何かが失われてしまい、オリジナルほどすばらしいレザーではないというのが一般的な見解です。(しかしながら、オリジナルのフロイデンベルグのハイドも廃業するころにはだいぶ変わってしまっていたことは認めざるを得ません)
こちらもイタリアのタンナーです。
ヴィチェンツァ県のバッサーノ・デル・グラッパにある町で営業しています。
同社のクロムタンニンなめしのカーフスキンはイルチアと特徴が比較的似ており、かなり薄いのにとても柔らかくしなやかなので、イルチアの倒産後、その顧客の多くを引き受けました。
靴業界が昔からゾンタの主要取引先でしたが、家具メーカー、レザー製品製造業者などにもレザーを供給しています。
最後に、
今回ご紹介したタンナーはほんの一部です。
高級シューメーカーに選ばれているタンナーは、もちろんまだまだたくさんあります。