大阪市福島区にある自称・日本一見つけにくい靴磨き屋「SHOESLab.TORCH」。
脱サラから靴磨き職人の道を選んだオーナーの松田慎也氏が、近所の人でも迷ってしまうような路地裏にひっそりと店舗をオープンさせたのは、2021年2月のこと。
「最近は見つけてほしい欲が出てきた」と笑って話すが、それもそのはず。
松田氏は超がつくほどの“イベント大好き人間”で、これまでにも少し変わった面白いイベントを独自に開催してきている。
「僕は関西人なので、面白いことを考えるのが好きで、常に笑かしたろって思いながら生きています。
それもあって、普段は口数が少ないかもしれません。何か面白いこと言ったろって常に考えているので、つい考え込んでしまって世間話が苦手なんです(笑)。
自分ではそんなつもりないですけど、なぜか『話しかけるな』オーラが出ているらしくて…。
人見知りで、慣れないところでは縮こまって猫かぶっているだけで、実際は活発な人なので安心してください(笑)。」
過去には、大晦日に煩悩の数だけ靴を磨き続ける“108project”、17時以降の予約でビールがもらえる“SUMMER CAMPAIGN”など、お客様に楽しんでもらえるイベントを定期的に開催しているが、アイディアはどのように思い浮かぶのだろうか。
「思いつきが多いです。常日頃から面白いことをやりたいと考えているので、日常でヒントを得たら頭の片隅に置いておいて、何かやりたいと思った時に、その引き出しを開けています。
特別リサーチをしようと思っているわけじゃないんですけどね。僕、天才肌なので(笑)。」
人見知りで天才肌の松田氏がイベントを開催する場所は、「SHOESLab.TORCH」の店内がほとんど。
それには、冒頭でもお伝えした“日本一見つけにくい”という店舗の知名度アップにつなげたいという意向もあるという。
「普段は来店に躊躇される方でも、フランクなイベントだと気軽に来られるみたいです。
うちの店舗はすごく特殊で、入口側のフロア半分を義父が別会社の事務所として使っていまして。
初見だと店舗を見つけるのも大変だし、締め切っている扉を開けることにもためらうのに、開けたらまったく関係ない事務所が目に飛び込んでくるんですよ。
初めての方は、入った瞬間“お店間違えちゃった?”って固まっています(笑)。」
そんな一風変わった「SHOESLab.TORCH」だが、イベントを開催するとたちまち人気となる。
昨年9月23日の“靴磨きの日”に第1回が開催された「勝手に靴磨けふぇす。」の第2回が、2023年5月6日(土)に開催されることが決定した。
開催時間は“たぶん”11時から17時“くらい”。事前予約なしで店舗を無料開放し、オーナーの松田氏は「お休みだからただ座っているだけ」なので、参加者は店内にあるシューケアアイテムを勝手に使っていいし、中古靴を勝手に試着してもいい。
まさに“勝手づくし”の破天荒なイベントなのだ。
「せっかくの“靴磨きの日”に合わせて何かイベントをやりたかったけど、去年は運悪く定休日とかぶっちゃったんです。
イベントをやりたい気持ちと、休みなのに店を開けて仕事するのも嫌やなという気持ちが葛藤して、『そうだ、僕はお休みだからお酒飲んで一切仕事しないけど、勝手に皆さんで好きなことやってくださいね』という日にしようと、開催1週間前に急に思いついたんです。『靴ぐらい自分で磨け』って(笑)。
告知期間が短かったにも関わらず、15名くらいの方にお越しいただきました。
靴が好きな方はもちろん、初めてお会いする方もいたり、同級生が子供を連れて来てくれたり、色々な方にお会いできて嬉しかったです。」
「僕はお休みだからお酒飲んで一切仕事しない」と言いつつも、靴磨きが初めてだという参加者には、しっかりとレッスンを施したとか。
「靴磨き自体が初めての方は、たった15分でこんなに綺麗になるのかと感動されていました。
靴は磨くけどサフィール製品を使ったことがないという方もいたので、ちゃんと宣伝させてもらいましたよ(笑)。
そのイベントがきっかけで、その後お店に通ってくれているお客様もいます。」
店内にあるアイテムすべてが自由に使い放題だった中、参加者から人気を集めたアイテムがあった。
「僕が好きなのでおすすめしていたのですが、タラゴの【プレミアムデリケートクリーム】は香りが良いので皆さん驚かれていました。
仕上がりがサラサラで、お財布とか手に持つ物をお手入れするのに最適です。缶がオシャレで女性でも買いやすいと思います。
あとは、サフィールとのインスタライブでも紹介したサフィールの【シューイーズ(革伸ばしスプレー)】は、スプレーしたら歩きながら伸ばせることに感動したので、ゴリ押ししていくと決めています。小指が痛い時にめちゃくちゃ助かるんですよね。」
関西人らしく、時折ユーモアを交えながらも誠実に答えてくれる松田氏。
初対面でも話しやすく、ついつい悩みを打ち明けてしまいそうな雰囲気なので、イベントで人生相談をした参加者もいたというのには納得してしまう。
「大学生の男の子が就活の時期で、靴磨き職人に憧れているけど、その道に進もうかどうか迷っているという相談でした。
僕がサラリーマンから職人になったという経歴をはっきり明かしているので、そういう経験をした人に話が聞いてみたかったそうです。
僕の答えとしては、靴磨き職人になるのは今じゃなくてもいいんじゃないかと。僕も32歳でまったく違う業界から転身したので経験からそう答えたのですが、まずは靴のことを学びたいならメーカーに就職して、靴磨きは副業とか、知人の靴を磨きながら経験を積むとか、ある程度社会人を経験してからでもいいじゃないかと思っています。
僕も10年サラリーマンを経験し、ビジネスの基礎や仕事上の付き合い方を学べたので、今の仕事でも活かすことができています。
ちなみに、その子は1時間、人生相談だけして帰りました(笑)。」
今でこそ、靴磨き職人として開業し、その1年後にはサフィール認定ショップに選ばれたり、今年に入ってからはルクア大阪のイセタンメンズスタイルアンバサダー(3/31任期満了)にも選ばれたりと、華々しい毎日を送っている松田氏だが、靴磨き職人としての道を進む前は“事なかれ主義のミスター60点の男”を自称するほど、何事にも無気力な性格だった。
「事なかれ主義なので、高校も大学も就職も、とりあえず自分の学力に合って、行けそうなところで選びました。
大学4年生の時に説明会や面接に行ったら、目ギンギンの奴らがめちゃくちゃハキハキ喋っていて、“この中で戦う自信ないな”と思い、しばらく就活を辞めてしまったんです。
卒業の2か月前にまだ就職先が決まっていなかったから、ある程度希望通りに通える場所ならどこでもいいやと思い、成り行きで入社したのが以前勤めていた会社でした。」
終身雇用が崩壊し、転職が当たり前となった現代で、新卒入社した企業で勤続10年は立派なものだが、決して仕事に対してポジティブな感情を抱いていたわけではなかった。
「以前勤めていた業界が“THE昭和”みたいな古い考えだったので、自分で企画を思いついても、なかなか実行できる土台がありませんでした。
そればかりか、頑張っても頑張らなくても、あんまり結果が変わらないのではないかと疑心暗鬼が生じて、ルート営業でしたが、1ヵ月間何にもしないとどうなるのか?と思い試してみたら、まったく変わらないどころか、ちょっと売り上げが上がったんです。そこで完全に気持ちが切れました。」
子供の頃から夢がなかった松田氏に、ようやくできた夢が靴磨き職人だった。
32歳で見つけた人生初めての夢を叶え、今は靴磨き職人という最高の仕事を心から楽しんでいる。
大阪府内、ならび近郊へお立ち寄りの方に朗報だ。
「SHOESLab.TORCH」は、毎月第2・第4水曜日(月2回)に、アルデ新大阪にて出張磨きを出店している。
関西へのアクセス拠点である新大阪駅にある商業施設のため、福島区の店舗まで行けない方にもぜひ訪ねていただきたい。
「駅構内という場所柄、ビジネスマン、旅行客、外国人など普段お会いできない方々との出会いがあります。
特に、出張で地方から大阪に来られて、営業先に行く前に磨いてほしいというビジネスマンの方が多く、そういう層に靴磨きは非常に需要があることが分かりました。」
出張磨きといっても、サービスの質は変わらない。
「金額もメニューも店舗とまったく同じです。お時間は、人の目の気になる通路で長時間いたくないでしょうから、店舗よりも素早く済ませるように意識しています。」
常に楽しいことを考えている松田氏は、次に実現したいイベントの構想をすでに練っていた。
「中古靴のバザーを開催してみたいです。
先日、僕がアンバサダーを務めていたルクア大阪のイセタンメンズスタイルで、高円寺にあるヴィンテージショップ『サファリ』のイベントが開催され、レアな古靴が200足ほど販売されてすごく賑わっていました。
関西は、中古の革靴屋が少ないので、関西人はそういうイベントに飢えているんです。
当店も30足くらい中古靴を扱っているけど、それだけじゃ足りないので、皆さんからそれぞれ売りたい靴を募って、バザーみたいな感じでできたらいいなと頭の片隅に置いています。」
アイディアマンの松田氏がオーナーを務める「SHOESLab.TORCH」が、“日本一イベントの多い靴磨き屋”になる日も近い…かも?
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