独特な紋様の生み出す陰影と黒々とした輝き、重厚さ得も言われぬ魅力を感じさせる素材、高級な革製品の代名詞として、は虫類革の中の<クロコダイル(ワニ)革>を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
実際に同じ型の牛革製品で比較すると、その値段はゆうに10倍以上の価格差が生じることも。
この価格差は、は虫類革の希少性によるものです。
は虫類革はエキゾチックレザーに分類されます。エキゾチックレザーには、は虫類革の他に鳥類革(オーストリッチなど)や魚類革(エイ・サメなど)、家畜動物以外の哺乳類の革(象、ペッカリーなど)がありますが、そのどれもが入手が困難で希少価値の高い素材です。
いづれも、地球上の貴重な野生動植物を絶滅から守るという目的のために世界81カ国の代表が集まって採択された「野生動植物保護条約」により厳しく規制・管理されているからです。
この「野生動植物保護条約」が1973年にアメリカ・ワシントンで採択されたことから通称「ワシントン条約」と呼ばれています。
ワシントン条約は、乱獲などにより野生の動植物が絶滅することのないように商取引の禁止や制限を設けたり、国際取引に原産国の輸出許可書を必須としたりするなどの規制を設けることで安易に希少な野生生物が商取引の対象とならないように定められています。
そしてこの条約は生きている動植物だけではなく、はく製や毛皮、エキゾチックレザーの皮革や象牙とその加工製品も対象となっています。
ということで、は虫類革がいかに価値の高い希少な素材であるかがおわかりいただけたかと思います。
そんなは虫類革の皮革製品ですが、皮革製品である以上長く美しく使い続けるためには“お手入れ”が重要となります。
前置きが長くなりましたが、本記事ではは虫類革の基本的なお手入れ方法や注意点についてご紹介したいと思います。
まずは、は虫類革の種類について。は虫類革には下記の種類があります。
そして、それぞれの皮革ごとにも数多くの種類があります。
さらに、腹部分と背の部分とでウロコの形状が異なること活かして、腹で開いて背中部分を活かすパターンと背で開いて腹部分を活かすパターンが存在します。
また染色したり、ツヤを出したり、マット(ツヤなし)にしたり、仕上げや加工で風合いを多様に変化させます。
は虫類革の独特の風合いはウロコの形状や並び、質感、紋様によってもたらされるものです。は虫類であっても革は革ですのでメンテナンスを怠ると傷み・劣化が生じます。結果、せっかくの風合いが台無しになってしまいます。
は虫類革と言っても、お手入れの方法は他の皮革製品とさほど変わりません。
専用のケア用品を使用する以外は基本的には同じやり方です。
ただし注意を要する点があります。
は虫類革の場合、素材によってはツヤと色を吹き付けなど後付けで仕上げているものがあります。
そのような仕上げの場合にはケア用品の使用はもちろんのこと、ただ水拭きしただけでも色ツヤが落ちてしまうケースがあります。
※そういった仕上げの製品は購入時に「お手入れは乾拭きのみで」と伝えられることも多いようです。
ケア用品を使用する際は必ず目立たないところでテストを行い、問題がないことを確認してから行うようにしてください。
ブラッシングは毛足の柔らかい馬毛ブラシを使用します。
とくには虫類はウロコの凹凸があるので、細部までしっかりとブラッシングしておきたいところです。
は虫類革専用クリーナーというものはサフィールブランドにはありません。
その代わり、は虫類革専用のケアクリーム“レプタイルクリーム(サフィール・サフィールノワール)”には栄養・ツヤ出し効果の他に汚れ落とし効果も兼ね備えています。
スムース革用のレザーローションのように、「汚れを落としながら栄養を与え、そしてワックスの効果でツヤを出す」のでこの2工程はまとめて行います。
サフィール、サフィールノワールのレプタイルクリームには動物由来の油分<ラノリン>が配合されており、は虫類革を保湿・保革して劣化を予防します。またハード系ミネラルワックスの効果により適度なツヤを与えますが、ワックス被膜効果によるは虫類革表面を保護する効果も発揮します。
ワックスをやわらかくするために配合される有機溶剤が汚れを落とすクリーナーの役目も果たしてくれます。
余談ですが、サフィール レプタイルクリームは、フランスの某超有名ブランドの「レプタイルコレクション」をケアするために研究・開発されたクリームで、フランス本国では別名「ビューティミルク」とも呼ばれ、親しまれています。
さてクリームを塗布する方法ですが、汚れ落としも兼ねるならクロスによる塗布、栄養・ツヤ出しが主であれば指塗りやアプライブラシ(馬毛)の使用がおすすめです。
どちらも少量ずつ数回に分けて塗布するようにしてください。クロスを使って塗布する場合はこすりすぎないように注意が必要です。
クリームを塗布したら、馬毛ブラシでブラッシングして全体に行き渡らせしっかりと浸透させます。ウロコの凹凸の奥までしっかりと届かせるためにはブラッシングは必須です。手早くブラシがけをして、毛先を使って摩擦熱をかけるのがクリームを浸透させるポイントです。
繰り返しになりますが、は虫類革の仕上げ方法によっては色やツヤを落としてしまう恐れがあります。
クリームなどを実際にご使用いただく前に、まずは目立たないところでテストを行うようにしてください。
また、は虫類革製品購入時に付属する注意書きや販売スタッフさんのアドバイスも参考になさってください。
ブラッシングの後は乾拭きをします。クロスのきれいな面を使います。
この時も摩擦熱を意識すると、ワックスの美しい光沢がより引き立ってきます。ワックスで光沢を出しておけば、もしベタベタ触って表面が汚れてしまってもワックス被膜が皮脂でくもっているだけなので、再度乾拭きをするだけでまた美しいツヤがよみがえります。
クリームを塗布することで、汚れをつきにくくし、ついた汚れを落としやすくするという効果もあるわけです。
これであなたのは虫類革製品も、万全のコンディションとなりました!
補足その1 : ツヤのないは虫類革は何を使ってお手入れをするか。
マットな仕上げのは虫類革には、デリケートクリームの使用をおすすめしています。レプタイルクリームを使ってしまうと本来の風合いとは異なるツヤ感が出てしまうのでご注意ください。最悪ワックスがシミなどの原因なる可能性もあります。
同様にパイソン(ヘビ)革などによく見られるウロコが毛羽立っているものもワックスの入ったクリームでのお手入れは避けた方がよいでしょう。こちらもデリケートクリームの使用をおすすめします。
補足その2 : 防水スプレーは使用を避けた方が良い
サフィールやサフィールノワールの防水スプレー“ウォータープルーフスプレー”はファー(毛皮)にも使えるくらいなので、デリケート素材へも安心して使用できるのですが、は虫類革については前述の通り仕上げや加工によっては表面を傷めてしまう恐れがあります。
また防水原体(たとえばフッ素など)が表面につくとくもりや白濁りといった現象を起こすことがあります。
コードバンやエナメル、ガラスレザーのように光沢感が命!な素材の場合は極力防水スプレーの使用を避けた方が良いでしょう。
クリームで油分を補いワックス被膜でコーティングをして素材本来の防水効果を高める、そしてその効果を維持するようにしましょう。
希少価値が高く高級な素材ですが、扱いも難しい。これが一般的なは虫類革のイメージです。
ですがひとたび手元に置いてみれば、他の皮革素材にはない独特な風合いに満ち溢れる魅力的な素材で、ファンが多いのも納得です。
は虫類革といっても他の皮革製品と同じように、特に特別なケアを必要とするものではありません。
素材の特性を理解し、注意すべき点を把握しておけば長く美しく使い続けるための基本はマスターしたも同然です。
もし「お手入れの仕方がわからない」というのが、所有の障害になっているのであれば、本記事をご参考にぜひとも「は虫類革製品」ユーザーになってみてください。
※本記事の「1.は虫類革の特長」は全日本爬虫類皮革産業協同組合(JRA)を参考・引用して執筆いたしました。
また一部画像は同サイトより転用させていただいております。
本記事で紹介した商品はこちらで購入できます。
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