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第2回「Brift H/新井田 隆さん」

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Column / 2nd 13 JAN. 2021

第2回「Brift H/新井田 隆さん」

メンズスタイルデザイナー 中里 彩がシューシャイナーに革靴を磨いてもらいながら、お話をお聞きするコラム連載。
第2回目は東京 青山の靴磨き専門店「Brift H(ブリフトアッシュ)」の新井田 隆さんにお話をうかがいます。お客様やスタッフから「ニイタマン」という愛称で親しまれている新井田さんは、Brift Hに入社して8年目の大ベテランで「靴磨き日本選手権大会」に出場されたご経験もあります。


今回、磨いていただくのは前回と同じくスペインのシューメーカー「CARMINA(カルミナ)」の外羽根プレーントゥのレディース靴。ライトブラウン色のつま先にハイシャインを施していましたがもっと深みが欲しくて、ややアンティーク調でお願いしました。仕上がりが楽しみです。

Nakazato

本日はよろしくお願いします。早速ですが、新井田さんが靴磨きの世界に入ったきっかけは何だったのでしょうか?

Niita

僕は高校卒業後、北海道のリーガルで靴の販売員をしていました。それまで靴や靴磨きの世界に触れることはなかったのですが、靴はちゃんと磨いてメンテナンスをすると10年20年履けること、ジョンロブ、エドワードグリーンなどの靴の製作工程の多さや職人のこだわりに衝撃を受けたことがきっかけでした。当時は今のように東京に靴磨き職人が全然いなくて、ネットで調べて長谷川(Brift H 代表)のページにたどり着きました。募集はしていなかったにも関わらず、手紙を書いて入所させてくださいと懇願したんです。ついに21歳のときにBrift Hに入ることができ、今では長谷川の次に古いメンバーになってしまいました。

Nakazato

やはり代表の長谷川さんという存在が大きかったのですね。Brift Hさんは、日本でも価格が高い靴磨き店としても知られていますよね。

Niita

現在、基本料金4,400円+指名料をいただいておりまして、指名料は僕が5,000円、代表の長谷川は6,000円、その他のスタッフは4,000円になっています。

最初にコバをヤスリで整え、コバインキを塗っていきます

Nakazato

長谷川さんもオープン当初は「そんな価格で靴磨き屋なんて難しいだろう」なんて言われたりしたのではないですか?

Niita

僕が入社1年目のときは、対面での磨きは2,500円くらいでしたが、実際にこの8年の間で2回値上げをしました。お客様からも「値段をあげるとうまくいかないだろう」というお声はありましたね。

Nakazato

値上げをしてもちゃんとブランドが築けていれば、ファンであるお客様はついて来てくれますよね。Brift Hさんはオープン当初から知っていますが、お店の見せ方や価格設定が巧みだなと感心していました。歴史的にみて、もともと靴磨きは路上などであまり身分が高くない人びとが、お客さんが台に足を乗せた状態で靴を磨くサービスでしたね。そこには明確な身分や階級の差がありましたが、そんな靴磨き職人をパフォーマーとして、お客さんと同じ目線に立ってお酒と一緒に靴磨きを楽しむというスタイルに転換したBrift Hさんの存在は、当時では革新的なものだったと思います。

Niita

たしかに、うちはお客様との距離感が近いお店ですね。私もそこに感化されてこの世界に入ってきました。代表の長谷川も路上で靴磨きをする際にマス向けのサービスにするか、ハイエンド向けにするのか迷い、ハイエンド向けにする代わりにこのスタイルでやると決めたと聞いています。未だに長谷川が突っ走りタイプなので、うまいことベースを守りつつ進んでいけるように意識しています。そこが刺激的で楽しいこともあって気づいたら8年経っていました。

クリーナーでていねいに汚れを落とします

Nakazato

お話を聞いててもうBrift H愛しか感じないです(笑)ここだけの話、この8年の間に他のところで修行したいと思ったことはなかったのですか?

Niita

僕はそれは全く思わなかったです。人によってはそういう気持ちもありますよね。靴磨きは3〜5年で独立を考える人が多いです。お客様にも同じことを聞かれますが、Brift Hを大きくしていくことが目標なので、全くないんです。

Nakazato

やっぱり、Brift H愛なのですね…!一途だなぁ

Niita

もちろん、靴磨き以外のことはこの会社にいながらもっと色々とやってみたいという気持ちはあります。今は特に、メンズファッションのジャンルの境界線を変えたいと思っています。自分はカジュアルもドレスもどっちも好きで両方を楽しむ表現を提案したい。

Nakazato

そういえば、新井田さんもたまにモード寄りの装いをされると聞いています。

Niita

今、Brift Hではビスポーク靴職人 小林晃太さんのブランド「When」とコラボしたオーダー会を開催しています(取材当時)。小林さんとは従来のビスポークとは最終的に違うものを目指したいという志に意気投合しました。ヨウジヤマモトやマルタン・マルジェラの服にも合わせられるオーダー靴を提案します。

ややアンティークな雰囲気をだすため2色のクリームをブレンドして指先で塗り込んでいきます。ニイタマンさんの指先が色っぽく感じるのは私だけでしょうか…?

Nakazato

確かに、モード系のスタイルの方も同じように革靴を履いていますけど、靴磨きやメンテナンスの習慣があまりなさそうですね。

Niita

そうなんですよ。青山という土地柄そのようなお客様にもご来店いただけるんですが、お手入れの知識を持ち合わせていない方が多くて、せっかくの足袋ブーツをお預かりしてもボロボロだったり、これは勿体無いと思い、シューケアの文化をもっと異なるファッションの分野にも広げたいんです。

Nakazato

それは大事ですよね。結局これからはどんどん垣根を越えていかないと、アパレル業界としても成り立たなくなってしまうと思います。業界人でもクラシックの人はモードを、モードの人はクラシックのスタイルを受け入れない傾向がありますが、Brift Hさんが率先して進めていくと、皆気づくのではないかと思います。

Niita

社長も含め、“ないものを提供していくスタイル”なので、どんどんそうなっていって欲しいです。でも、クラシックを極めるのもめちゃ格好良いですけどね。

職人さんの精悍な横顔って惹き込まれますね。普段なかなか目の前でじっと眺める機会のない靴磨きの時間を楽しめるのがBrift Hさんの醍醐味

Nakazato

色々なスタイルがあって良いと思います。逆にクラシックが原点の老舗ブランドがストリートに寄っていってるのはどう思われますか?例えば靴でいえば、フランスのベルルッティは今ではトレンドの形のスニーカーを出したり、これまでのロゴを廃してサンセリフ体のロゴに変え、ロゴTシャツを売り出したりと、ここ数年でストリート寄りのスタイルに激しく変化してきていますね。

Niita

あれはあれで良いと思います。ただ、昔のベルルッティはベルルッティで残って欲しいなとは思います。どうにか共存できないんですかね。あの影響でオルガ時代の伝統がなくなってしまっているのはお客様からも残念だという声を聞きますし、僕も勿体ないとは思いますね。

Nakazato

クラシックとモードと2つのラインを共存させながらブランドを築いていけたらいいですよね。ただ、ブランドの見せ方としては伝統と革新のバランスの取り方は非常に難しいところで、スーツ業界も模索しています。

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