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飯野高広の
“サフィール・タラゴと歩む 革靴さんぽ道”

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飯野高広の
“サフィール・タラゴと歩む 革靴さんぽ道”

公開日:2025/05/29 / 最終更新日:2025/05/28

お馴染みSaphirNoir ビーズワックスポリッシュの、もう一つの、いやこれこそ本来の使い方?

鏡面磨きにだけ、ではもったいない!

鏡面磨きにだけ、ではもったいない!

 

革靴に関心が出始めると、靴磨きやそのお手入れにも自然と興味が湧いてくるものです。各メーカー・ブランドの革靴から、これらを通じて次第に唯一無二の「自分の革靴」に変化してゆく醍醐味は、同じ革製であってもどデカいブランドマークありきのスニーカーではなかなか味わえないもの。履き手自らが主導権を握って価値を付加できる密やかな快感を一旦知ってしまうと、革靴以上にシューケア用品に興味が湧いたり、「このシューケア用品が使いたいから、この革靴をゲットしよう!」などというある種の逆転現象も起こりがちです。いや、これって筆者(飯野)だけか… 

 

そんなお手入れの中でも越えるべき大きな山として聳え立つのが、そう、ワックス掛け。ことさら例の「鏡面磨き」ではないでしょうか。革靴のどのエリアに、どの位塗布するか… どんなに慣れていても上手くいったりいかなかったりで、一喜一憂の繰り返し。一旦ハマったら二度と抜け出せない「沼」の典型です。そしてこの沼に不可欠なのが、ご存じSaphir Noirの名作・ビーズワックスポリッシュ。扱いやすいのと共に、一たびトロッとした艶が出始めるとそれが重力加速度的に深まってゆくのがたまらない! 靴磨きの技術を競うSHOESHINE GRAND PRIX(2024年までの靴磨き選手権大会)でも、ほぼ全ての選手のテーブルにこれが、しかも常に複数色置かれていることでも品質の優秀さがお判り頂けるかと思います。 

 

そう、鏡面磨きに不可欠なアイテムであるSaphir Noirビーズワックスポリッシュ、なのですが… 実はだなぁ、もう一つ別の、しかも非常に効果的な使い方があるのですよ。それは「防水・防汚」の役割革の表面をコーティングするのを通じ、雨水の侵入や汚れそれに傷から「革を守る」のです。これ、今となっては嘘みたいに知られていないのですが、この商品ならではの「ある特性」が何気に活かせるので、知っておいて絶対に損をしない以上に断然お得! 今日はその方法をご紹介申し上げます。 

下地作りがまず肝心

SaphirNoir(サフィールノワール)ビーズワックスポリッシュを「防水・防汚」向けとして用いるには、その前の「下地作り」つまりアッパーの革のコンディションをしっかり整えておくことが肝心になります。この記事を読まれていらっしゃる方なら百も承知でしょうが、まずはここからご説明申し上げましょう。 

 

1:汚れ落とし 

馬毛ブラシで表面の汚れやホコリを落とした上で、クリーナーで革の内部の汚れを取ります。クリーナーは靴の汚れに合わせて変えたほうが宜しいでしょう。汚れが軽ければSaphir Noirコンデショニングクリーナーか前回の記事でご紹介したSaphir Noirマカダミアローションで十分。一方、塩吹きのような「これは一旦完全にリセットしたほうが…」的な汚れの場合は、スッピン度では以前から定評のあるSapirレノマットリムーバーで、それを確実に取り除きましょう。 

 

2:栄養分の補給 

次にクリームで潤いと栄養を与えます。小ブラシか指でまず塗ってから、豚毛ブラシで靴全体に成分を馴染ませるのがポイント。実はクリームとワックスって相性の良し悪しが結構あるのですが、Saphir Noirビーズワックスポリッシュの特性を最も素直に引き出せるクリームは、やはり同じブランドのもの=Saphir Noirクレム1925にとどめを刺します。原料が似ているせいなのかとにかく馴染みが良く、革の上で喧嘩しないのです。 

敢えて靴全体に、ごくごく薄く塗る

そう、ここまでは鏡面磨きの準備段階と全く同じ。ただし光沢以上に「防水・防汚」を重視する場合は、ここから先は微妙に異なってまいります。ポイントはズバリ、塗る場所と用いる分量! 

3:Saphir Noirビーズワックスポリッシュで「コーティング」 

手に水気が付かない程度の水を含ませたネル布で、少量のSaphir Noirビーズワックスポリッシュを靴全体に広げた上で拭き上げてゆきます。ネル布に予めごく少量の水を付けておくのは、主に革表面での滑りを良くするのと水で革表面の温度を下げることでワックスの層を速く作り上げるため。また、ポリッシュの分量はごく薄く、例えると片足でスマホの横スクロール2・3タッチ程度で十分です。入れ過ぎた箇所は豚毛ブラシを軽く掛け、成分と輝きを散らすことも忘れずに。拭き上げは革を軽くマッサージする感覚で行うと良いでしょう。 

鏡面磨きにはすることのない履きジワ部分

鏡面磨きにはすることのない履きジワ部分

鏡面にすることのないアッパー部分

同じくアッパー部分にも塗布

4:3を靴全体にもう一度! 

鏡面磨きでは、一般的な油性ワックスで革の毛穴を埋めベースの層を作った後、更に薄く数層重ねることで光沢を増してゆきます。しかし「防水・防汚」目的の場合は2層程度、しかも薄い層で十分に威力を発揮するので、無暗に多量に用いることは禁物です。 

ビーズワックスポリッシュの2層目を塗布

2回目の塗布でより艷やかに

5:布とブラシで「研ぐ」 

次いで新しい面にしたネル布に、やはり水を一滴付けた上で拭き上げ、革の表面を平滑にします。その後、もしお持ちでしたら山羊毛系のブラシにやはり手が湿らない程度の水を付けてブラッシングし、布での拭きスジを消します。これらはかかとからつま先へと片道に優しく、しかし軽く素早く「研ぐ」感覚で行うのがポイント。この辺りは鏡面磨きの仕上げと似ていますね。 

 

6:ストッキングで仕上げ 

最後にストッキングのような素材の布に水を一滴たらし手早く磨き上げましょう。生じる摩擦熱で余分なワックス=曇りを取り除き、潤いの豊かな光沢を出す目的です。 

向かって左・右足はクレム1925までのお手入れ、向かって右・左足はポリッシュを全体に塗布し水研ぎまで

◀ クレム1925まで / ポリッシュを全体に軽く塗布 ▶

ポリッシュを軽く全体に塗布する前後を比較

ポリッシュを軽く全体に塗布する前後を比較

ワックスの真の存在意義を発揮する使い道

いかがでしょう? 特に鏡面磨きに苦労されていらっしゃる方ほど、こちらの使い方には拍子抜けされているかも? Saphir Noirビーズワックスポリッシュの量、そして水の量さえ間違わなければそれより失敗のリスクも遥かに少なく、確実に目的も果たせます。 

 

Saphir Noirビーズワックスポリッシュは、実は他の油性ワックスに比べこの「防水・防汚」目的の用い方には非常に適した特性を有しています。それは「柔らかさ」。例えば、鏡面磨き向けに特化したが故に前述の靴磨き選手権大会では以前は使用禁止だったSaphir Noirミラーグロスに比べると、こちらは明らかにソフトと申しますか、弾力性のある質感であることは双方を用いたことがある方ならお気付きでしょう。このお陰で革の細かな凹凸に隙間なくしっかり食い付くとともに、履きジワが付いても剥離し難いため、たとえ薄い層であっても革を確実に守ることが可能なのです。 

鏡面ほどではないが十分な光沢と水弾き効果を発揮

鏡面ほどではないものの十分な光沢と水弾き効果を発揮

うすく2層を重ねただけなので、革の凹凸感がみえる

うすく2層を重ねただけなので、革の凹凸感がくっきりみえる

と、申しますか、シューケア用品の歴史の面から考察してみても、油性ワックスは 

「油分を浸透させて革のコンディションを整え、蝋分を表面にコーティングして革を雨や汚れから守る」 

がもともとの目的。鏡面磨きはこのうち蝋分が与えるもう一つの作用=光沢を出せる、に着目して後に産み出された技法な訳です。今回採り上げたような原点的な使い方でも優れた効果を発揮できるSaphir Noirビーズワックスポリッシュは、1920年の創業以来レザーケアの概念を大きく前に進めたこのブランドの、当時から今日までずっと大切にし続けている基本軸を思い出させてくれる商品といえるのではないでしょうか。 

 

あ、筆者(飯野)はこれを「防水・防汚」目的にどう使っているかって? なんとなくお察しでしょうが、例えば黒の靴に敢えてこのネイビーやグレイ、それにフォーンを用いて、仕上げのニュアンス付けも含めて楽しんでおります。用いてもごくごく薄く2層なので革の色自体には影響を与えませんし、しかも成分も革に優しいからこそ、実用性を高められると共にこのような「遊び」が可能なのです。以上、これから始まる梅雨の時季を乗り越える靴のお手入れの一工夫としてご参考になりましたら! 


本記事で紹介した商品はこちらで購入できます。

SaphirNoir(ノワール)ビーズワックスポリッシュ 50ml
SaphirNoir(ノワール)ビーズワックスポリッシュ 50ml
ハイシャイン(鏡面磨き)に必須、高品質なカルナバワックス・ビーズワックスベースの固形ワックス


 
  • 服飾研究家

    飯野 高広 Takahiro Iino

    1967年東京生まれ。大学卒業後大手鉄鋼メーカーに11年勤務したのち、服飾研究家として独立。この分野では出身がファッション業界でもメディア業界でもない特異な存在としても知られ、紳士靴やスーツなど主に男性の服飾品全般を、ビジネスマン経験を活かした楽しくかつ論理的な視点で解説するのが特徴。
    出版では、紳士靴関連では2010年に出版した『紳士靴を嗜む:はじめの一歩から極めるまで』(朝日新聞出版)が今日まで版を重ねるロングセラー。紳士服関連でも2016年に出版した『紳士服を嗜む:身体と心に合う一着を選ぶ』(朝日新聞出版)が類書に無い内容の濃さで好評を博している。
    近年はWEBやTVにも活躍の場を広げており、2015年にはTV番組「マツコの知らない世界」に「靴磨きの世界」のガイド役としても出演。NHKテレビ「美の壺」では2018年11月放送の「粋を極める 男の靴」の回に出演、2023年12月放送の「品格をまとう スーツ」の回でも総合監修を行った。また、2006年から専門学校で近現代ファッション史の講義も担当し、スタイリスト業界に中心に多くの教え子を輩出し続けている。

Le Beau
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