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飯野高広の
“サフィール・タラゴと歩む 革靴さんぽ道”

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飯野高広の
“サフィール・タラゴと歩む 革靴さんぽ道”

公開日:2025/01/15 / 最終更新日:2025/01/16

お馴染みのサフィールのユニバーサルレザーローションに 「ブラック」が追加

革靴を簡単・確実にお手入れできる、サフィールのユニバーサルレザーローション。「汚れ落とし・栄養補給・ツヤ出し」がこれ一本で可能な、いわゆるオールインワンタイプのレザーケアローションのロングセラーです。実は革靴だけでなくバッグや財布、レザーウェアやソファーなど、スムースレザーを用いた革製品全般に使用できるアイテムなのですが、これに色付き=ブラックが登場したと聞いたのはつい先日。居ても立ってもいられず早速入手し、使い心地をチェックしてみました。

SAPHIR(サフィール) ユニバーサルレザーローション ブラック

まずはユニバーサルレザーローションのおさらい

この商品の主成分は、まずビーズワックス=蜜蝋。

文字通りミツバチの巣から採取される蝋で、原料は蜂蜜に含まれる糖分です。ミツバチはこれで巣の壁を作る訳で、人類は古くからそのお裾分けをして頂いているのです。効果としては

  • 革の表面に皮膜が作れる結果、ツヤを出せたり水分を弾くことが可能。
  • 革のモイスチャーバランスを保つとともに、柔らかくすることもできる。
  • 他に配合された成分を安定させ、分離を防げる。
  • 殺菌や抗炎症作用。

などがあります。効果でもお判りの通りズバリ、シューケア用品には欠かせない蝋です。それ以外にも家具のお手入れ用品、口紅や冬場に活躍するリップクリーム、それに薬の軟膏にも多用されます。

 

次にホホバオイル。アメリカやメキシコの砂漠地帯に原生するホホバという低木の種子から採取されるもので、液体なので間違えやすいのですが、化学組成的に言うと実はオイル(油)ではなく蝋の一種です。因みに油と蝋の違いをざっくりと申し上げると、油は人間が摂取すると体内で消化・吸収できますが、蝋は消化できずに排泄されます。効果としては

  • ビタミンEやビタミンA、ビタミンDなどが含まれるので抗酸化作用があり、皮革の劣化を防ぎ弾力を取り戻す。
  • 革のモイスチャーバランスを保つとともに、しっとり滑らかな質感を与える。
  • 他に配合された成分を安定させ、分離を防げる。
  • 抗炎症作用や抗菌作用、抗紫外線作用。
  • 多少の汚れなら溶かして落とせる

などです。最後の効果が何気に重要です。比較的高価なシャンプーやクレンジング剤には必ずと言って良いほどホホバオイルが含まれていますね。これは単に髪や肌に弾力や滑らかな質感が得られるだけでなく、一種の洗浄剤的な役割も果たせるからです。

 

最後はラノリン。羊毛の根元から分泌されるこちらも、実は蝋の一種です。こちらは

  • 保湿効果が高く、体積の約3倍の水分を貯め込める。
  • 革に浸透しやすく軟化させる。
  • 水を弾き革を保護する。

などの効果があり、特に保湿面では革製品のお手入れ用品には欠かせない原料です。つまりサフィールのユニバーサルレザーローションは、これら3つの主原料の相乗効果で「汚れ落とし・栄養補給・ツヤ出し」という、一見相反する効果を可能にしているのです。

「ニュートラル(無色)」とは何が違う?

まず、従来からあるユニバーサルローションの「ニュートラル(無色)」との違いを確認してみましょう。最初にローション自体の質感。これは率直に申せば、ニュートラルもブラックもほとんど変わりありません。トロッとやや粘性があり、布に直接取って革製品に塗り込みやすい特徴は、同じです。色が付いたからと言って質感が硬くなったわけではないのでご安心を。

サフィール ユニバーサルレザーローション ブラックを小皿に出し、質感を確認
トロっと粘性のある質感はニュートラルと変わらず

そして仕上がり具合の違いを比べてみましょう。下の写真にあるドレスシューズのつま先周辺に注目してください。向かって左(右足)がニュートラル、右(左足)が黒を塗ってお手入れしたものになります。

左(右足)にはニュートラルを、右(左足)にはブラックを塗布

← ニュートラル | ブラック →

いかがでしょうか? 光沢のニュアンスがやはり異なる感じがしますね。ニュートラルのほうは透明感のあるキラッとした光沢、一方ブラックのほうはそれに比べると僅かに控えめかつどっしりと腰の据わった光沢、と申し上げるのが適切な気がします。サフィール ノワールのビーズワックスポリッシュやクレム1925の、ニュートラルとブラックの違いと似た印象です。拭き取りの簡単さやお手入れ後に革を触った質感は双方で同じです。

おっ、色移りしないぞ、これは!!

色が付いたということは、当たり前ですが「黒く補色ができる」ということです。

ちょうど普段使いで履き古してしまったフランスの名門・メフィストのウォーキングシューズの大傑作”Cruiser”が手元にあったので、かかと部でその効果をチェックしてみました。

向かって左がローション使用前、右が使用後。

← Before(塗布前) | After(塗布後)→

今度は向かって左(左足)がこれを用いる前、右(右足)が用いた後です。不自然なベタ塗りではなく、絶妙な塩梅で補色されているのがおわかりいただけるのではないでしょうか。もちろん艶に関しても、サフィール ノワールのクレム1925を用いた時に比べれば穏やかではあるものの、十二分に回復しました。ただし、です。この状態を見るだけでは、ブラックのユニバーサルローションの真価は半分しか理解できていなかったことに、後で気付くことになります。

両足の黒い革のパーツをお手入れして30分弱後、急用が生じてこの靴を早速履かなくてはいけなくなりました。一般的な革靴とは異なり、このCruiserは履き口のスポンジを覆う革が靴の内側まで僅かに巻き込む、いかにもウォーキングシューズらしい構造になっているのが特徴で、このエリアもつい先ほどお手入れしたばかり。ということは、下手をするとパンツの裾や靴下に、黒く色移りしてしまう! それに気付いたのは履いてから数分経った後でした。ああ、やっちまった…  因みに私はパンツの裾は、流行り廃りに関係なく以前から若干長めに設定するので、ただでさえ裾が汚れがちです。極度の冷え性なので、パンツの裾から風が入るのが堪えられないのです

しかし帰宅後、半ばあきらめ気味で確認するとそれらには、黒の形跡が全くなかったのです。つまり色移りしていない=革への色の定着性が極めて高いということ。これには正直たまげました。因みにサフィールには、色移りしないことで有名な補修用クリーム「レノベイティングカラー」という商品が以前からあって、私もバッグの色補修に大いに活用しているのですが、それに含まれているのと同様の柔軟性の高い樹脂で定着力を増しているのかも?

 

なお、下の写真は、紙にユニバーサルローションを塗ったもので、向かって左がニュートラル(判別し難いですが)、右がブラックです。どちらも塗って約5分後には成分が完全に紙に吸収され、指で擦っても指先には全く色移りしません。

サフィール ユニバーサルレザーローションのニュートラルとブラックをそれぞれ紙に塗り、乾かしてから色落ちをチェック

← ニュートラル | ブラック → 塗布後5分後にこすってみると…

黒をしっかり定着させたい時に!

ではこれらの結果から、ユニバーサルローションの「ブラック」が一体どんな革製品に向いているかについて、色々考察してみたいと思います。例えば黒の革靴だと、酷使して色が抜けたり擦り傷が生じたものの補色には間違いなく効果があるでしょう。

 

コーティング力が高い分、特にウォーキングシューズやレザースニーカーのように、色出しが顔料主体のアッパーを用いているもののお手入れには最適な気がします。黒味がこれだけで十分に、しかも自然にリカバーできますし(それでも黒味が足りないようなら、サフィールのビーズワックスファインクリームのブラックを後から追加で塗布すればOK)、色合いも含めて全般のメンテが手軽にかつ確実にできるのは大いに魅力でしょう。あとはレッドウィングのエンジニアブーツのような、黒のワークブーツ系の色抜けの補修にも良さそうです。

 

更には色味の定着性の良さを考えると、色移りが厳禁の黒い革小物、例えばお財布や手袋、それにバッグのお手入れにも活躍できること確実です。これらは色味が回復すると革靴以上に、表情も質感も見違えるほど綺麗に復活しますので。いずれにしてもニュートラルだけでなく、ブラックも一家に一本あると絶対に重宝します。様々な革製品の救済アイテムとして、幅広くご活用されてみて下さい。


 

SAPHIR(サフィール)ユニバーサルレザーローション ブラック
SAPHIR(サフィール)ユニバーサルレザーローション ブラック
人気の万能レザーローションに補色効果(黒)をプラス


 
  • 服飾研究家

    飯野 高広 Takahiro Iino

    1967年東京生まれ。大学卒業後大手鉄鋼メーカーに11年勤務したのち、服飾研究家として独立。この分野では出身がファッション業界でもメディア業界でもない特異な存在としても知られ、紳士靴やスーツなど主に男性の服飾品全般を、ビジネスマン経験を活かした楽しくかつ論理的な視点で解説するのが特徴。
    出版では、紳士靴関連では2010年に出版した『紳士靴を嗜む:はじめの一歩から極めるまで』(朝日新聞出版)が今日まで版を重ねるロングセラー。紳士服関連でも2016年に出版した『紳士服を嗜む:身体と心に合う一着を選ぶ』(朝日新聞出版)が類書に無い内容の濃さで好評を博している。
    近年はWEBやTVにも活躍の場を広げており、2015年にはTV番組「マツコの知らない世界」に「靴磨きの世界」のガイド役としても出演。NHKテレビ「美の壺」では2018年11月放送の「粋を極める 男の靴」の回に出演、2023年12月放送の「品格をまとう スーツ」の回でも総合監修を行った。また、2006年から専門学校で近現代ファッション史の講義も担当し、スタイリスト業界に中心に多くの教え子を輩出し続けている。

Le Beau
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