いろんなファッションアイテムが流通し、手に入れるのに困らない便利な世の中になった今日。日常においても実にいろんなスタイルを楽しむ方が増えています。
さまざまな行事はもちろん、ビジネスマンにとっても重要なアイテムなのが“スーツ”ですよね。
恰好よく着こなしている方を見かけると、ついつい目で追ってしまうのは私だけじゃないはずです。
さて、今回は、世界的に有名なテーラーのアトリエを経営するファッショニスタ、ルカ・ルビナッチ氏へのインタビュー記事をご紹介します。
ルカ・ルビナッチ氏は、服飾に関して計り知れないほどの知識を持ち、ナポリのテーラードスタイルを世界中に広めた「ルビナッチ」一族の3代目当主です。
インタビューの中には、ルビナッチ氏お気に入りの革靴や、シューケアについても話されています。
本記事はsaphir.comに掲載されている記事Interview with Luca Rubinacciを、日本語意訳でご紹介しています。
インタビュアー:ルビナッチさん、本日はお時間を作っていただきありがとうございます。ふたり目のお子さんが生まれたばかりだというのに恐縮です。
ルビナッチ:どういたしまして。ふたり目は男の子で、父の名を取ってマリアーノと名付けました。ルビナッチの名前を継ぐ四代目ができてうれしいです。ナポリの出のわが家にとって跡継ぎ問題は重要です。私には女のきょうだいが3人いますが、男子がいないとルビナッチの伝統が途絶えてしまいかねません。なので、本当にうれしいです。
私はいまミラノの店舗にいます。日中はアポイントメントやフィッティングをこなし、それが済み次第ベスパで5分ほどの自宅へ大急ぎで帰り家族との時間を満喫します。
インタビュアー:ナポリのテーラリングを受け継ぐ家の三代目として、若いころからお父上の跡を継いでかならずテーラーになろうと決めていたのですか?
ルビナッチ氏:実はそうではないんです。だんだんそうなりました。若いころはプロセーラーだったんです。オリンピックのイタリアチームのトレーニングに参加するという貴重な体験をしました。ここで競争心を養いました。
まだ6歳のころ、父にフィレンツェのピッティ・ウォモへ連れて行かれ、荷ほどきを手伝いました。当時、父と過ごす時間はだいたいこんな感じでした。放課後はルビナッチのワークショップへよく連れて行かれました。テーラーが床に落とした布切れで遊んだり自分のジーンズに布切れを縫い付けたりしていました。生まれてこの方この世界で育ってきたんです。
20歳のときにセーリングを辞める決心をしました。セーリングを続けるか、ほかの選択をするかそのときに決めなければならなかったんです。父の跡を継ぐという選択はとても魅力的でした。人々の暮らしに幸せをもたらし素敵な着こなしを伝授する、とても素晴らしい仕事ですから。そんなこんなで、父にロンドンのサヴィル・ロウへ修行にやられ、イタリア製シルクを取り扱う商社で実務経験を積んでからナポリの父の会社に入りました。私はとても負けん気が強かったので、父のこともライバルだと思っていました。自分の名を売ろうと張り合っては父を大いに喜ばせていました。失敗から学ぶことを父から教わりました
回り道をしましたが、だから今の私があるんだと思います。このニッチな世界でファッションインフルサーとして世界に認められているのは本当にうれしいことです。
インタビュアー:貴重な経験を重ねてこられたのですね! では、ルビナッチ家のスタイルについてお話しいただけますか。
ルビナッチ氏:祖父は芸術を愛する美術商で、その装いのセンスを見込んだサヴォイア公の命を受けこの商売を始めたんです。テーラーが在籍するアトリエをナポリに開き、当時のナポリの上流社会の服を仕立てることになりました。上流社会の人々は働かず遊んで暮らしていました。『甘い生活』のように。祖父はイギリスやミラノのジャケットよりソフトで着心地よくするためにジャケットの形式を破壊し、第二の肌のような軽さを実現し
ました。これが後にナポリジャケットとして知られるようになります。不完全な完全さ、それがナポリのテーラリングの秘密です。つまり、ルビナッチの。
当時、ルビナッチのお客様はナポリの住民で、街では人気がありましたが国際的な知名度はありませんでした。いまや、ルビナッチの名は世界に知られ、お客様のニーズは国によって異なります。父が私をロンドンにやったのもイギリスのテーラリング哲学を学ばせてルビナッチに取り入れるためでした。ルビナッチを訪れる世界中のあらゆる人々の服を仕立てる、ナポリ気質のオープンでモダンな店を目指したんです。
お客様ひとりひとりのためにスタイルを構築しようと心がけていることが現在の特色です。すぐにそれと分かる特徴的なスタイルがテーラーにはあるものです。ルビナッチのジャケットは内側を見れば分かります。ルビナッチのジャケットを着ている人なら知っていると思いますが、知らない人は、見た目ではなかなかルビナッチだとは分からないでしょう。ルビナッチが唯一無二たる所以はそこにあると思います
インタビュアー:ここ数年で男性の服装はどのように進化したでしょうか?
ルビナッチ氏:ご存知のとおり、メンズスタイルは年々進化しています。着こなしについては、クリーク(小集団)を見ると分かります。ある方向へ行くこともあれば別の方向へ行くこともあります。しかし、既製服とビスポークでは
話が別です。ビスポークの場合、お客様は自分なりのワードローブを作っているからです。ファッションではなく、ニーズと体型を考慮しなければなりません。ですから、テーラーを訪れるお客様の服装はおのずと進化していると思います。
人と違うモダンな装いを好む若い人たちがいます。彼らの装いにはこだわりがありますが、所詮はむかしからあるものに過ぎないのです。ですから、よい方向か悪い方向へ進化しているとは思いません。ただ進化し続けているのです。私のような人間がアドバイザーになる必要があります。人々がどのように進化しているか、ふさわしい製品をどのように提案するかを私たちは把握しなければなりません。
インタビュアー:あなたがインスタグラムのストーリーズで装いのアドバイスをなさっているのを見ている読者やフォロワーは多いです。着こなしについてひとつだけアドバイスするとしたら、それは何ですか?
ルビナッチ氏:きわめてシンプルです。いいセンスを持つこと。いいセンスはすべての、生活の基本です。装いや働き方のベースです。すべてにいいセンスを取り込めばきっとうまくいきます。難しいことではありません。装いでも、靴磨きでも、どんなことでも同じです。考えるんです。これは私にフィットしているか。老けて見えるか、若く見えるか。似合っているか、似合っていないか。心配しないで。着心地がいいと感じるか、着てみたいと思うかです。やってみてください。いいなと思ったら着てみる! 簡単ですよ。
紳士たるものネクタイを着けるべしと言いますが、そんなことはありません。私はカイトサーフィンやスノーボードをします。運動するときはまったく違う服装ですが、服装のセンスはあります。サーフィンに行くときローファーは履きません。TPOに応じた快適な服装を心得ているのが紳士なのです。
インタビュアー:ルビナッチはスーツのほかにも多種多様な衣類を取り扱っています。将来的にはどのようなものがコレクションに加わる予定でしょうか?
ルビナッチ氏:コレクションを構築するうえで重要なのは、品質、生地、そして、どうすればこの製品が特別なものになるかというリサーチです。スタイルとどのような製品かに関しては、同じスタイルと同じカットがかならず見つかる場所がルビナッチだと思っています。ご満足いただいているお客様にとってこれがルビナッチのスタイルなのですから、この先も変えることはありません。いまのファッションはせわしなく変化しています。店へ行くと次のシーズンには同じフィットやスタイルはもうありません。目隠しをつけた馬のように、男性はいいものを見つけたらそこへ行きたがります。床屋と同じで、一度いい店を見つけたらほかの店ではなくその店に通いたいですよね。これがルビナッチです。最高の品質を適切な価格で見つけるために私たちは努力しています。高いとか安いとかではなく、手にする品質に見合った価格を見つけたいのです。
インタビュアー:ルビナッチの店舗はミラノ、ナポリ、ロンドンにあります。旅行する機会の多い人に道中での着こなしについてアドバイスはありますか?
ルビナッチ氏:旅が多い人にはシワになりにくい軽い服がいいですね。寒ければコートを持っていってください。このご時世は暖かい屋内にいる機会が多いですが。身軽に旅したいですから、ホップサックのような目の粗い生地がいいですね。シワになりにくい目の粗いものです。色は合わせやすいものがいいです。ブルーのスーツ1着にグレーのズボン1本、デニムジーンズ1本、シャツは3~4枚です。ブルーのシャツ1枚、ストライプのシャツ1枚、デニムのシャツが2枚。こんな具合に私は旅をしてその場にふさわしい着回しができています。旅行に何枚も服を持っていく必要はまったくありません。
インタビュアー:アドバイスありがとうございました! 靴の話を少しさせてください。よく履くお気に入りの一足はありますか?
ルビナッチ氏:たくさんありすぎてお気に入りの一足はないですね。(笑)着道楽にお気に入りを一足だけ選べというのは無理な話です。TPOによって好きな靴は変わります。たとえば、きょう私はグレーのピンストライプスーツに合わせて黒のペニーローファーを履いています。好きなブランドはたくさんあって、ビスポークの靴も持っていますし、ルビナッチのローファーやモルハスの靴もたくさん持っています。なぜモルハスみたいな安いブランドが好きなのかと聞かれますが、素晴らしいブランドですし、別に高い靴でなくてもデザインと作りがよければいいんです。ビスポークの靴も持っていますが毎日は履けません。ダメにしたくないので。
インタビュアー:先日インスタグラムでサフィールのビーズワックスポリッシュをお使いになって靴を磨いておられましたが、靴磨きは普段からよくなさるのですか?
ルビナッチ氏:週に1回くらいです。もっと多いときもあります。靴磨きには30分かけます。手をかければいつまでも長持ちしますからね。毎日磨く必要はありません。ちょっと気になったら手入れすれば十分です。サフィール製品はすべて揃えています。スエードシャンプーが特お気に入りです。こういうシューケア製品を揃えるのが好きで、ポリッシュはバーガンディからブラウン、ブラックまで全色持っています。
今はブラウンのシューズをブラックのポリッシュで磨いてパティーヌを出すのにハマっています。とても楽しいです。ポリッシュで遊んでいるとこういう発見があります。ストレスを感じたときなんかに1時間くらい腰を据えてコーヒーかビールを飲みながら靴を磨くとリラックスできるんです。
インタビュアー:最後はプライベートに関する質問です。どんな音楽をよくお聞きになりますか?
ルビナッチ氏:ビートの多くない、リラックスできるラウンジミュージックをよく聞きます。きのうはジャズ、レゲエ、ラウンジを聞きました。JPクーパーとか。きのうの午後はずっと妻とレゲエを聞いて楽しい時間を過ごしました
インタビュアー:本日はお忙しいなか貴重なお話を聞かせていただきどうもありがとうございました!
ルビナッチ氏:ルビナッチのコレクションはmarianorubinacci.comでご覧いただけます。私のインスタグラム@luca_rubinacciも覗いてみてください。